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「温暖化で異常気象」裏付け…イベント・アトリビューションとは?

「温暖化で異常気象」裏付け…イベント・アトリビューションとは?

気象と気候変動を関連づけた報道を呼びかけた気象予報士ら(右が井田さん)

2023年夏、日本列島は猛暑に襲われ、各地で記録的な豪雨にも見舞われた。こうした異常気象の発生に地球温暖化が影響したことを裏付ける「イベント・アトリビューション」と呼ばれるシミュレーション手法が発展している。気象予報士や気象キャスターもイベント・アトリビューションに期待しており、気候変動と関連づけた報道を増やすようにメディアに呼びかける声明を発表した。(編集委員・松木喬)

15年以降データベース充実 検証、飛躍的に発展

イベント・アトリビューションは温暖化が進行していない仮想世界をコンピューターにつくって豪雨や猛暑を何度も再現し、温暖化が進行している現実世界と比較する。

200人を超える死者を出した18年7月の西日本豪雨を検討すると、温暖化がなければ「68・0年に一度」級の降雨量だったが、温暖化によって「20・7年に一度」級と3・3倍に高まった。また、東日本に大きな被害を出した19年10月の台風も、温暖化によって降水量が10・9%増加。23年6―7月に各地で同時多発した線状降水帯も温暖化によって1・5倍に増加したと見積もられた。

気象庁気象研究所の川瀬宏明主任研究官は「かつて研究者は極端な気象の原因が温暖化のせいなのか、直接回答できなかった」と歯がゆさを語る。温暖化がなくても雨や雪は降り、台風も発生する。普段よりも暑い日があれば、寒い日もあるからだ。

10年以降、日本でイベント・アトリビューションの研究が進んだが、対象はアマゾンの干ばつや北米の熱波だった。15年以降になるとデータベースが充実し、国内を対象とした検証が飛躍的に発展した。

川瀬主任研究官は「ここ数年は温暖化が進むことは間違いないので、イベント・アトリビューションの重要性が増す」と見通す。そして、災害が発生してすぐに検証結果を発表できるように研究を重ねているという。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)執筆者である気候科学者の江守正多さんは「『人間活動によってこれだけ暑くなった』という風に、イベント・アトリビューションは人々の認識に訴えかけられる。気候変動対策を支持する人を増やせる」と期待する。

メディアに危機感 報道の少なさ警鐘

気象予報士や気象キャスター有志44人が5日、テレビ局などメディアと連携し、番組で気候変動問題を扱う機会を増やすように呼びかける声明を発表した。テレビで気象予報士・キャスターは「お天気コーナー」への出演がほとんどで、災害を伝えることはあっても気候変動問題に触れることはほぼないという。

呼びかけ人の一人で、テレビで活動経験がある気象予報士の井田寛子さんは「気候変動問題にまっすぐに目を向けて変えていかないと、甚大な被害が繰り返される」と警鐘を鳴らし、気候変動問題を伝える枠を拡大してほしいと訴えた。

気候変動問題を伝えられないもどかしさを抱く予報士・キャスターは多い。井田さんは4月上旬―5月中旬、予報士・キャスターにアンケートを依頼し、130人から回答を得た。その結果によると、予報士・キャスターの9割が気候変動の影響や危機感を感じていると分かった。60・6%が気候変動を伝えた経験があるが、39・4%は伝えたことがなかった。また、82・6%が「気候変動をもっと伝えるべきだ」と問題意識を持っていた。

伝える上で難しい理由を複数回答で聞くと「放送時間」(91件、68・9%)が最多で、続いて「専門的で難しい」(81件、61・4%)や「科学の不確実性」(72件、54・5%)が挙がった。気象予報士は専門家とみられがちだが「私たちの認識では気象と気候は違う。気候変動に踏み込んでよいのかためらう」(井田さん)と悩みを打ち明ける。「専門性」を補うものとしてイベント・アトリビューションが期待される。

企業にとってもイベント・アトリビューションが導き出した結果は、気候変動対策を推進する根拠となりそうだ。脱炭素技術の研究・開発の必要性についても社内での理解が進む。

日刊工業新聞 2024年06月07日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
森田さんが言っていました。散髪中に耳に入った会話が、「今年の夏は暑くなるって」「そうらしいね」で終わったそうです。地球温暖化による異常気象が原因であるとか、どうやって猛暑を食い止めるとか、そういう話題になりにくいです。気象予報士は視聴者にとって身近です。予報士からの発信の増加に期待したいです。活字媒体も頑張りたいです。

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