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「ペロブスカイト太陽電池」…電荷輸送材で変換効率・耐久性向上に貢献

「ペロブスカイト太陽電池」素材を追う #08 電荷輸送材
「ペロブスカイト太陽電池」…電荷輸送材で変換効率・耐久性向上に貢献

写真はイメージ

次世代太陽電池の本命と期待される「ペロブスカイト太陽電池」の性能は構成する素材やそれを扱う技術の力も左右する。ペロブスカイト太陽電池をめぐる素材と関連技術の動向を追う。

ペロブスカイト太陽電池は「透明電極」「電子輸送層」「ペロブスカイト層」「正孔輸送層」「裏面電極」の大きく5つの層で構成する。太陽光などの光エネルギーが透明電極側から入り、ペロブスカイト層がそれを吸収して電子と正孔を発生させる。電子輸送層が電子を、正孔輸送層は正孔をそれぞれ選択的に電極に運ぶことで電気を生み出す。電子輸送層のための電子輸送材と正孔輸送層のための正孔輸送材の性能は、太陽電池の変換効率や耐久性などに影響する。

電子輸送材にナノ技術生かす

三菱マテリアルは電子輸送材の研究開発に注力する。酸化チタンなどの酸化物で粒径100nm(ナノメートル/ナノは10億分の1)以下の機能性無機ナノ粒子製品を扱っており、そこで培った技術を応用する。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション(GI)基金に採択された、ペロブスカイト太陽電池の事業化を目指すエネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)から委託を受けており、変換効率の向上に貢献する電子輸送材について25年度までの開発を目指す。

同社は、機能性無機ナノ粒子製品を遮熱材や導電材などの用途で展開している。特に遮熱材用途は業界に先駆けて00年代前半に製品化した。そうして関連の技術やノウハウを積み上げてきた。三菱マテリアルものづくり・R&D戦略部開発企画室の岡田恒輝室長は「無機ナノ粒子の形状や純度を制御する合成技術や分析技術は我々の強み」と自負する。そうした技術を生かし、酸化チタンや酸化スズなど多様な無機酸化物を扱いつつ、ナノ粒子の形状や純度など多様な要素を調整して、ペロブスカイト太陽電池用としての最適解を模索していく。

また、ペロブスカイト太陽電池の構造は、透明電極、電子輸送層、ペロブスカイト層、正孔輸送層の順で積層した順構造のほか、電子輸送層と正孔輸送層の位置を変えた逆構造などがある。それぞれの構造で電子輸送材は異なる設計思想が求められる。同社はそれぞれの構造に最適化した複数の電子輸送材を提案する方針で、すでに「一部の構造に対しては従来品に比べて高い変換効率を出せる材料を実現している」(岡田室長)という。

電子輸送材としては、炭素化合物のフラーレンの利用も期待される。デンカは4月にフラーレンの製造販売を手がけるフロンティアカーボン(東京都千代田区)に出資し、三菱商事と共同で運営する体制を整えた。デンカは高い導電性を持つ炭素化合物であるアセチレンブラックの量産実績を持つ。そうして培ってきたカーボンナノ材料のノウハウや製造技術をフラーレンの品質向上に応用し、27年をめどに量産体制を整えたい考え。

有機EL技術を正孔輸送材に応用

一方、三菱ケミカルは正孔輸送材の供給を目指す。ペロブスカイト太陽電池の生みの親である桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が立ち上げたコンソーシアムに参画している。宮坂特任教授が同社の正孔輸送材を使って太陽電池セルを作成したところ、従来品に比べて寿命や変換効率が高まる成果を得たという。そのほか、複数のメーカーにサンプル品を提供し、評価を受けている。

同社はプリンターの部材である有機感光体(OPC)ドラムや有機EL向けなど、有機材料を20年以上研究開発している。ペロブスカイト太陽電池と同じ、有機系の太陽電池である「有機薄膜太陽電池」は製造実績も持つ。そうして培った材料設計や評価の技術、ノウハウを応用して材料組成などをさらに最適化した正孔輸送材を開発し、ペロブスカイト太陽電池の性能向上や製造プロセスの効率化につなげる。また、正孔輸送材も電子輸送材と同じく、適用するペロブスカイト太陽電池の構造や製造プロセスによって最適解が変わる。同社は各太陽電池メーカーなどの取り組み方に応じた最適な正孔輸送材をそれぞれ開発していく。

三菱ケミカルアドバンストソリューションズ統括本部電池・エレクトロニクス本部エレクトロニクスインキュベーション部の船山勝矢部長は「ペロブスカイト太陽電池の課題である寿命の改善などに向けて正孔輸送材が取り組める余地はまだまだある。素材メーカーとして貢献したい」と力を込める。

日産化学は有機EL向け材料の開発で蓄積した技術を応用して正孔輸送材を開発した。溶媒に溶けやすく大面積で均質な正孔輸送層を形成しやすいという。サンプル品でメーカーなどによる評価を受けており、30年の事業化を目指す。

ペロブスカイト太陽電池の事業化を目指すアイシンの研究開発子会社であるイムラ・ジャパン(愛知県刈谷市)は1999年から色素増感太陽電池の材料を開発しており、そこで培った技術を応用して正孔輸送材を開発している。アイシン製品開発センター先進開発部グリーンエネルギー開発室の中島淳二主席技術員は「イムラ・ジャパンの材料を我々のペロブスカイト太陽電池に用いて評価するサイクルを迅速に回して、性能向上を図っている」という。

このほか、日本精化や保土谷化学も正孔輸送材の研究開発に取り組んでいる。

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