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ぞっとする食事、環境破壊に警鐘…WoWキツネザル氏が鳴らす

ぞっとする食事、環境破壊に警鐘…WoWキツネザル氏が鳴らす

WoWキツネザル氏

―まず、ワオキツネザルに扮(ふん)した理由を教えて下さい。
 「バンド活動中の2013年、開設した動画配信番組の進行役がWoWキツネザルだった。一番好きな動物がワオキツネザルなので、まねた。バンドは解散したが、周囲の勧めでWoWキツネザルとして司会の仕事を続けている」

―環境問題との出会いは。
 「キャラクターを深めたいと思い、17年にワオキツネザルが生息するマダガスカルに行った。大自然を想像していたが、一部しか緑が残っていなかった。現地の人が生活のために森林を伐採して燃料にしているからだ。私たち日本人が現地の人に対し、環境のために木を切るなと言えない。だが、大好きな動物たちが絶滅するかもしれない。やるせなくなった」

―執筆の経緯は。
 「帰国後、環境問題の啓発を始め、19年に本書と同名のイベントを開いた。『絶滅を体験できる』と言えば、環境に無関心な人も参加してくれると思った。エンターテインメントは間口を広げられる。イベントは原点であり、書籍にした」

―野生動物を食材にして食べ切れない料理を提供するなど、環境破壊に加担する飲食店が登場します。架空ですが、平然としている店主や客に恐怖を感じました。
 「風刺や皮肉をやりたかった。だから、ぞっとする違和感をちりばめた。環境問題を知らないとダメだ、自分は何ができるのかと考えるきっかけになってほしい。読者から『この登場人物は自分じゃないか』『現実との境界線がなくなり、怖かった』と言ってもらえた」

―店名やメニュー名も環境関連のニュースを連想させます。調べ直したくなりました。
 「激辛ラーメンを食べるとむせる。これは山火事の煙で息ができない健康被害と共通しており、組み合わせようと思った。このように生まれたアイデア一つひとつを広げた。専門家にもこんな表現方法があるのかと思ってほしかった。読者に『私もそう思います』と言ってもらえる共感が重要。一方的に『伝えた』ではなく、どうすれば『届く』のかを意識して執筆した」

―大人向けの本という印象を持ちました。
 「次世代のために環境を守るべきだと言うが、大人が自分たちの問題として解決しないといけない。異常気象によって生活の快適さが失われ始めている。生物多様性の損失によって食料価格が高騰し、身近な家計に影響が出ている。また大人は、自然に触れられない子どもがかわいそうだと嘆く。そもそも自然が失われた世界でしか遊んだ経験がないのだから、子ども自身は悲しいとは思わない。傷つくのは、自分と同じ体験をさせてあげられない親だ」

―読者へのメッセージをお願いします。
 「企業が社会を動かしているから、私たちは快適に過ごせている。だからこそ、社会や環境に責任を持っている。自分たちが与えている環境負荷を理解し、その負荷を減らしつつ、多くの人や生物、自然が幸せになれる方法を一緒に考えたい。次は『絶滅回避レストラン』を執筆したい」(編集委員・松木喬)

◇WoWキツネザル(わおきつねざる)氏 環境系エンターテイナー
15年にバンドマンからプロの司会業に転身。マダガスカル渡航のドキュメンタリー動画を17年に制作、19年には「絶滅体験レストラン」を主催。環境問題・生物多様性に関連する企画・制作・出演を手がける。現在、官公庁や企業、NPOとの共同企画、教育機関や自治体での講演、海外での取材活動を展開。富山県出身、36歳。
『絶滅体験レストラン』(山と渓谷社 03・6744・1900)
日刊工業新聞 2024年06月17日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
いろいろな環境本がある中で、読みながら「答え探し」をするのは初めての体験でした。そして短いエピソードに多くの問題が無理なく盛り込まれている構成も、唸りました。何よりもWoWキツネザルさんの語り。インタビューをしていて、同じ環境用語でも専門家とは違う伝え方(届け方)が勉強になりました。

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