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アジアの石化、岐路に…日本は脱炭素技術でリードできるか

アジアの石化、岐路に…日本は脱炭素技術でリードできるか

日本の化学業界が強みの環境負荷低減技術を生かしアジア石化の脱炭素対応をリードする(住友化学のプロピレンオキサイドプラント)

アジアの石油化学が岐路に立っている。中国による石化プラントの大規模な新増設で汎用品の供給過剰が起こり、厳しい需給環境が続く。カーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)対応も重要性が増す。両課題への活路としては環境対応による石化製品の付加価値創出が欠かせない。日本の化学業界は技術力の強みを生かし、脱炭素につながる技術開発でアジアをリードする役割が求められそうだ。(山岸渉)

中国の供給過剰悪材料

「業界の収益性と技術的差別化の両方を高める長期的な競争力モデルに共同で着手する必要がある」―。5月末に韓国ソウルで開催した石化の国際会議「アジア石油化学工業会議(APIC)2024」でホスト国を務めた韓国石油化学協会のシン・ハクチョル会長はこう呼びかけた。

アジアの石化企業の経営層らが一堂に会したAPICで話題の中心だったのが、中国による供給過剰と脱炭素対応だ。S&Pグローバルのマーケティングセミナーによると、中国は化学製品の基礎原料となるエチレンのプラントですでに数千万トンの生産能力を持つが、大規模な増強計画があり、石化関連の供給過剰が少なくとも2028年ごろまで続く見通しだ。利益率の“谷”が長引くと示された。また東南アジアでは中国による石化製品の供給過剰だけでなく、最終製品まで中国からの影響があり、内需が伸びずに影を落としているもようだ。

日本も4月までエチレンの製造プラントの稼働率が21カ月連続で9割を割り込むなど、需給ギャップの影響がくすぶる状況となっている。

一方、事業環境が厳しい中でも世界的な脱炭素対応の重要性は高まっている。日本の化学業界にとって脱炭素は石化が新たな付加価値をつける好機とも捉える。石油化学工業協会の岩田圭一会長(住友化学社長)は「グリーン製品は先行すると希少価値になる」と語る。

アジアの石化では中国の供給過剰や脱炭素対応が重要な課題だ(APIC首脳)

実際、住友化学は環境負荷低減技術を強みとした石化関連製品の製造ライセンス供与、旭化成は二酸化炭素(CO2)を原料としたポリカーボネート(PC)といった「CO2ケミストリー」を手がけるなど、日本の化学各社は脱炭素に貢献する技術開発や提案に力を入れている。

一方、APICの会合などを通じて脱炭素対応への取り組み姿勢では日本が先行しているだけに、各国との現状認識の違いも感じたようだ。岩田会長は「日本が技術開発をしないといけないとあらためて感じた。ビジネスチャンスもある」とみる。工藤幸四郎副会長(旭化成社長)も石化の構造改革などで「日本が丁寧に進めていく中で、数年後にやり方を(各国・地域が)見習う形になってほしい」と語る。日本がアジアの石化の脱炭素実現をリードする役割が増しそうだ。

環境対応・構造改革、韓国は慎重姿勢

韓国の石化業界も中国経済の低迷、中国を中心とした石化関連のプラント供給過多などで、日本と同様に需給ギャップによる影響などを受けているようだ。

韓国石油化学協会によると、23年の韓国のエチレン生産能力は1280万トンだった。国内需要の848万4000トンに対し、生産は943万7000トンとなった。24年見通しも大きな変化は見られず、エチレンプラントの稼働率は8割辺りが続いているもよう。

一方、26年には韓国でのエチレンの生産能力は計約1500万トンに増強される見通し。韓国の石化業界は構造改革や脱炭素対応の重要性を認識しているようだが、ロッテケミカルなど韓国石化大手を中心に大規模なプラントが多く、慎重に対応を検討しているとみられる。

石化協の馬場稔温副会長(丸善石油化学社長)は韓国石油化学協会との会合を経て「思ったほどの深刻さはなかった」と振り返った。実際、石油精製が堅調など石化各社でも経営環境に濃淡があるとみられる。韓国でアクリル樹脂原料のMMA(メチルメタクリレート)などを手がけるロッテMCCでは、MMAの生産に使うのがエチレンプラントから発生するC4留分だ。「ロッテグループのネットワークで一定の原料確保ができる」(長谷田久人代表理事副社長)という利点もあるようだ。

一方、財閥による運営、石化プラントが特定の地域に集中する韓国石化の事情などを踏まえると、構造改革は「動き出せば早いかもしれない」(工藤副会長)とみる。

インド、需要旺盛 持続可能性を重視

石化産業が引き続き活発なのはインドだ。同国の石油化学製造者協会(CPMA)のカマル・ナナバティ会長は「インドは世界で最も急成長している経済国の一つとなっている」と指摘。自動車やインフラなど多くの産業における堅調な成長によって化学産業の成長も後押しする。

インドでのエチレン生産能力は23年度に867万7000トンに達し、25年度には927万7000トンに増加すると予想されている。

一方、ナナバティ会長は「私たち全員にとっての課題は(石化製品における)持続可能なプロセスやソリューションを採用することだ」と説く。気候変動への対応など持続可能な石化産業の実現に向けさまざまな施策を推し進める。

具体的には石油精製から石化を垂直統合するオイル・ツー・ケミカル(O2C)とともに、グリーン水素の活用に取り組むなど成長とカーボンニュートラル対応に向けた変革を進めていく構えだ。

APICで課題共有 ビジネス創出の機会

APICは日本や韓国、台湾、シンガポール、マレーシア、タイ、インドの7カ国・地域の持ち回りで開催されるアジア最大の石化関連の会議だ。

アジアの持続可能な石化の実現にAPICの場を生かす(APIC2024のフェアウェルパーティー)

韓国ソウルで開催されたAPIC2024は34の国・地域から業界関係者ら計1000人以上が集まり、活発な情報交換などが実施されたようだ。

今回のテーマが「サステナブル時代の先駆者へ」だった。中国の大規模なプラント増設の動向、地政学リスクによるサプライチェーン(供給網)の混乱も課題となるなど、世界の石化業界を取り巻く環境は大きく変わっている。カーボンニュートラルへの対応の認識の共有も深めつつ、今後は持続可能な石化の未来を実現するためのさまざまな活動が期待される。

次回は25年にタイで開催予定だ。APICでは脱炭素実現に向けた各国・地域による交流の場として、環境対応技術を生かしたビジネスチャンス創出の機会などに生かすことがより求められそうだ。


【関連記事】 大手化学メーカー、構造改革の行方
日刊工業新聞 2024年06月14日

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