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探究心で未来創造…室蘭工業大学、新学長が描く将来像

探究心で未来創造…室蘭工業大学、新学長が描く将来像

松田瑞史学長

理工系強化や「地域中核・特色大学」など、国公私立を横断する大きな予算事業が近年、動いている。国立大学は法人化から20年を迎え、改革の方向性がそれぞれの個性として定着してきた。4月に就任した新学長のインタビューから、各大学の戦略を見ていく。

情報系充実、変化に対応

航空宇宙やレアアース(希土類)など、学術と産業にまたがる分野に強い室蘭工業大学。4割の卒業生が北海道で就職するだけに地域との関係も深い。同大が目指す将来像を「松田ビジョン」に改定した松田瑞史学長に、未来を作り出す大学としての思いを聞いた。

―ビジョンのスローガン「真なる探究心から未来の価値づくりを」の意味は。
 「探究は教員の研究でも学生の学びでも、活動の動機として重要だ。そこに未来の産業へつなげる意識を加え、これまでにないものを生み出すキーパーソンになってほしい」

―改組をした6年前から情報共通科目をぐっと増やしました。
 「全学部生に対して卒業要件129単位中、12―16単位の情報科目を必修にした。現代の技術者は特定の知識・経験だけでは社会に対応できない。専門を隣接分野に広げ、瞬時に学び直しできるベースの手法として、情報系を充実させた」

―その分、専門が削られてしまう、という教員の声もあるとか。
 「学生の研究活動は大学院シフトで深めたい。そのため進学後押しの『院価値再発見キャンペーン』を始めた。『論文が出来る頃には、自分に軸ができている』『院卒 年収 今すぐ検索!』など、30種類の標語を学内のあちこちに掲載。ユニークなデザインのポスターも作成した。進学説明は3年次の夏にしていたがそれでは遅い。親が同席する入学式から強調し始めた」

―近年、新たな研究が芽を出しています。
 「コンピューター科学は論文被引用率が全国トップクラスになるなど成果を出している。食を通じた農工連携では北海道の伊達市や白糠町など自治体との関係が強まり、住民のアクティビティー向上にも貢献している」

―大学間の連携強化にも積極的です。
 「共通するのりしろがある理工系大学同士の連携を重視したい。航空宇宙、人工知能、食で始めた東京工業大学、九州工業大学との連携がその一つだ。成果が地元に還元できるのなら、地域内連携でなくてもよい。一方で北海道大学とは1人の研究者を双方で雇用したり、同大の研究担当理事だった人材を本学に迎えたりと関係を深めている。多様な関係を大事にしたい」

【略歴】まつだ・みずし 89年(平元)北大院工学研究科博士修了、同年通商産業省(現経済産業省)入省。94年室蘭工大工学部助教授、04年教授。15年理事・副学長。北海道出身、62歳。

【記者の目/アグレッシブさも発揮】
 対人関係の構築に優れ、周囲に「この人に頼めば大丈夫」と思わせる人柄だ。一方で「(大学院への)進学率が4割と低いのを隠すより、学内で花火を打ち上げるべきだ」というアグレッシブさも持ち合わせている。ブレンドが楽しみだ。(編集委員・山本佳世子)

日刊工業新聞 2024年05月30日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
北海道の国立大学といえば小樽商科大、帯広畜産大、北見工業大の統合(北海道国立大学機構)が気になります。けれどもかつて、北大を中心とした教養教育の連携経験(今はなくなっている)からすると、教育の連携は意外に難しい(北大に他が皆、頼りすぎる)と松田学長はいいます。逆に研究の連携は、統合までしなくても教員同士の案件ごとに進む面があります。また経営面の効果を社会は期待しますが、私は「大が小を飲み込む吸収合併なら、小規模組織における効率化は大きい。けれどもそうでない場合は、国立大は公務員型雇用で人員削減できないし、企業統合で想像するような効果は得られない」と感じています。統合も単独も、それぞれのやり方で最適な展開を模索してほしいです。

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