「ペロブスカイト太陽電池」のガラス基板、日本板硝子・日本電気硝子が生かす実績と技術
次世代太陽電池の本命と期待される「ペロブスカイト太陽電池」の性能は構成する素材やそれを扱う技術の力も左右する。ペロブスカイト太陽電池をめぐる素材と関連技術の動向を追う。
ペロブスカイト太陽電池の基板にガラスを用いる場合、透明電極の材料として「フッ素ドープ酸化スズ(FTO)」を成膜する。FTOは高温による成膜が必要だが、フィルム基板で使われる「酸化インジウムスズ(ITO)」に比べて他の物質と反応しにくい(化学的安定性が高い)といった特性があるためだ。
FTOガラスで大きな実績
日本板硝子は、太陽電池基板用FTOガラスの供給で大きな実績を持つ。ガラス生産の工程で金属酸化物を成膜する「オンラインコーティング技術」で高効率に大量生産できる強みなどを生かし、米ファーストソーラーに大量供給している。ファーストソーラーはカドミウムテルル(CdTe) 型化合物系太陽電池を手がけ、太陽電池の世界シェアで上位につける。日本板硝子グループのオンラインコーティング機能を持つガラス生産ライン9件のうち、5月時点で5件がファーストソーラー向けの設備という。FTOガラスの新たな事業機会としてペロブスカイト太陽電池市場への期待も大きい。すでに、複数のメーカーにサンプル品を供給しており、市場開拓を狙っている。
オンラインコーティングは、ガラスを成形する設備(フロートバス)の中に成膜装置を設置する。その装置により、ガス状の気体原料を送り込み、熱エネルギーで化学反応を促すCVD法(化学気相成長法)で成膜する。フロートバスの中は600-900℃程度で、この高温を生かして成膜するため、室温のガラス製品に成膜する場合に比べてエネルギーを効率よく使える。また、製品サイズに切断する前の連続したガラスに成膜するため、大量生産にも向く。
太陽電池用FTOガラスはファーストソーラーを含め、複数メーカーに長く供給しており、FTOの成膜に関わる技術や知見を蓄積してきた。同社建築ガラス事業部門日本統括部硝子企画部の染矢潔グループリーダーが胸を張る。
「一言でFTO(の成膜)と言っても作り方や成分で特性に差が出てくる。太陽電池メーカー向けで一律ではなく、各社の製品ごとに最適化する。(顧客には)それを実現できる技術や知見、経験が評価されている。この技術や経験はペロブスカイト太陽電池向けでも当然、生かせる」
R2Rに適用できる「超薄板ガラス」
曲げられるペロブスカイト太陽電池は一般にフィルム基板を用いて実現するが、ガラス基板でもその薄さを追求することで、軽かったり曲げたりできる特性を持たせられる。日本電気硝子は厚さ200㎛(マイクロメートル)以下の超薄板ガラスの製品を展開する。ロール状の長いフィルムを巻きだして成膜・加工する製造プロセスで、生産効率が良いとされるロール・ツー・ロール(R2R)に適用できる利点を訴求し、ペロブスカイト太陽電池の事業化を目指すメーカーなどに提案している。
超薄板ガラスは「オーバーフロー法」という方法で製造する。蓋がなく断面がV字型で横長の成形設備に1500℃に溶けたガラスを流し込み、ガラスを上端の両側から均一にあふれさせる。それから外面に沿って流れて下部で融合し、それを機械的に引っ張りながら冷やして薄いガラスを形成する。完成したガラスの表面は空気以外に触れないため、平滑に製造できる。
超薄板ガラスは、この成形設備に流し込むガラスの量や、設備の下部でガラスを引っ張る速度などを最適化して実現する。同社は13年12月に幅0.5mかつ長さ100mのロール巻きガラスで当時世界最薄の35㎛を開発した。現在はそれぞれ最高で幅は1.4m、ロール巻き長さは1km、薄さは25㎛を実現しており、これほど薄いガラスを作れる企業は世界でも限られるという。ペロブスカイト太陽電池のほかに、折り畳みスマートフォンなどでの利用を見込む。
超薄板ガラスをペロブスカイト太陽電池の基板に用いると、R2Rに適応できるほか、ガラス本来の耐久性が生かせる。フィルムに比べて耐熱性や耐候性、ガスバリア性などの性能が高いからだ。
一方、R2Rに適応する場合、プロセスの確立はフィルムに比べて難易度が高い。フレキシブルとはいえガラスのため、小さい曲率半径で曲げたり、急激にねじったりすると割れる。また、R2Rは基板に発電層を成膜した後にシートの形に切り出すが、その切断加工でも技術は必要になる。日本電気硝子ディスプレイ事業部TFT加工部の森弘樹部長代理は「(我々のガラスを扱うノウハウを生かして完成品メーカーと)製造プロセスなどを共同で開発していきたい」と意気込む。