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鴻海・シャープ決着も「不信感」拭い難く

偶発債務爆弾、「機構案を支持する誰かが意図的に送った可能性もある」
 台湾・鴻海精密工業によるシャープ買収が決まった。ただ両社には意思疎通不足で買収契約を延期するなど、不信感が芽生えている。早期に信頼関係を醸成できなければ、期待するシナジー創出は難しい。

 「思った通りや」。3月下旬、台湾・鴻海精密工業がシャープへの出資額を4890億円から1000億円程度減額する要求をしていると聞き、あるシャープ幹部はため息をついた。産業革新機構との再建を支持していた同幹部は、鴻海傘下の再建がスタート前からつまずいたことに失望感を隠さなかった。

シャープが2月25日に鴻海傘下で経営再建を目指すことを決めてから、両社が契約を結ぶまでに約1カ月を費やした。その原因は、シャープが同24日に鴻海へ送った「偶発債務」の文書だった。

 文書は将来顕在化の恐れがある「偶発債務」をまとめた内容で、3000億円超という規模の大きさが驚きを呼んだ。再建パートナーを決める前日に、そういった文書を候補先に送付した理由はいまだ不明。しかも、鴻海は同25日のシャープ決議前に「偶発債務」を理由に契約を延期する意向をシャープに通知していたという。

 シャープは高橋興三社長がすぐに中国に飛んで郭台銘鴻海会長に経緯を説明。同26日に「偶発債務は適切に開示している」とのコメントを出した。しかし鴻海はその後、郭会長や財務担当者がシャープの国内の複数の事業所に乗り込み「偶発債務」の精査を開始。3月中旬には高橋シャープ社長や複数の幹部のほか、主力取引行の幹部を台湾・新北市の鴻海本社に呼んで出資条件の見直しなどの再交渉を行った。

 再交渉で鴻海はシャープの出資減額、主力2行からのシャープ優先株買い取りの減額などを要求した。しかし、シャープと主力行がこれに反発。最終的にシャープが出資額の減額をのんだ。

 鴻海に再交渉を許したもうひとつの原因は、シャープが2月24日まで再建パートナーを鴻海と革新機構のどちらにも絞り切れなかったことだ。普通なら取締役会決議とほぼ同時に相手先と契約締結するが、それができなかった。

 革新機構と鴻海をてんびんに掛けた同24日までの最初の交渉は鴻海に1000億円の保証金を認めさせるなど強気だったが、いったん鴻海を選んだ後は、相手の出方をただ待つしかない。革新機構案支持のシャープ幹部が危惧した通り、再交渉で後手に回り、出資額減額をのまざるを得なかった。

 「偶発債務」という”爆弾“は当初、「機構案を支持する誰かが意図的に送った可能性もある」(主力行幹部)とささやかれた。しかし、結果的に”爆弾“は革新機構でなく鴻海に有利に働いた。あるシャープ幹部は「通常の交渉で重大な債務リスクを決議前日に知らせることはあり得ない」と断言するが、誰がどんな意図で文書を送ったかは「分からない」と言葉を濁す。

 過去に資本業務提携を結んだが破談した過去を持つシャープと鴻海。この1カ月あまりの経緯を見ると、両社の不信感はいっそう拭い難いものになったと言わざるを得ない。
(大阪=松中康雄、同・錦織承平)
日刊工業新聞2016年3月31日「深層断面」から抜粋
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
「機構案を支持する誰かが意図的に送った可能性もある」ー。これもリークでしょう。この1カ月のドタバタどころか鴻海、革新機構の両案が競っていた時からメディアも終始、リークにのらされていた。最後は銀行が墓穴を掘ったという印象しかない。明日、両者トップが記者会見するが、高橋社長の後任でどういう駆け引きがあったか。

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