パナソニック・シャープ、独自技術を農業に生かす
現場での “再現性” カギ
大手電機メーカー2社が独自技術を農業に応用する。パナソニックホールディングス(HD)は、葉に散布すると農作物の収穫量を増やす効果がある成長刺激剤について、2024年度内の実用化を目指す。微生物を利用し、製造時に二酸化炭素(CO2)を利用する点から脱炭素への貢献も可能とみる。シャープは空気浄化技術を国内の植物工場に提案する。農業は環境負荷が大きく、他業界の技術を活用する余地がある。農作業の現場で再現性を担保できるかが課題だ。(大阪・森下晃行)
パナソニックHDの成長刺激剤「ノビテク」はシアノバクテリアを原料とする。水とCO2から光合成を行い、葉緑体の起源とされている微生物だ。
遺伝子改変により細胞外膜が剥がれ落ちる特性を持たせたシアノバクテリアを培養。細胞外に漏れ出た光合成時の代謝物や、膜脂質などを抽出したものが成長刺激剤になる。
水に希釈して野菜に散布する実証実験を行ったところ、8割を超える確率で収穫量が増加した。種類によって効果にばらつきはあったが、ホウレンソウなどは最大40%以上の収穫増を確認できた。
化学肥料や土壌改良材とは作用が異なり、同HD技術部門の児島征司主幹研究員は「株の成長を促したり、天候や刺激への耐性を高めたりする」と説明する。導入に大がかりな設備投資が必要なく、まくだけで良いのも利点だ。
シアノバクテリアは光合成時にCO2を消費するため、使い方によっては「カーボンネガティブの取り組みに役立てられる」(児島主幹研究員)。植物向け以外にも活用方法があるとして研究を進める。
電機メーカーがバイオ分野で研究成果を上げられたのはなぜか。「社内に多様な技術がある」(同)ためで、他社や外部機関の手を頻繁に借りることなく、社内のリソースを生かして「独自のものを早く作れる」という。
シャープは空気浄化技術「プラズマクラスター」に植物の生育促進に働く効果があることを確認した。静岡大学との共同研究で、種まき直後のイネにプラズマクラスターイオンを照射し続けたところ、芽の長さが比較対象より最大約4倍になった。エネルギー生成を指示する「遺伝子発現」の働きも最大で約3倍に増加したことが分かった。
今後はプラズマクラスターの活用を「国内の植物工場の約10%に提案していきたい」(シャープ)とする。
電機メーカーでは十数年前に、植物工場やスマート農業への参入を目指す機運が高まった。だが、採算の難しさなどから本格展開に至らなかった背景がある。
現在は環境への関心が当時以上に高まり、費用対効果に優れる技術の開発も進む。ノビテクのように植物のストレスを減らし、健全に育てる農業資材「バイオスティミュラント」はその一例だ。
気候や土壌の質、農作物の種類や育て方といった不確定要素の多い現場でも一定の効果を示せるかが課題になりそうだ。