米巨大IT企業の背中追うAI活用、日本研究者の模索
人工知能(AI)分野では米国の巨大IT企業がしのぎを削る。巨大な計算機やロボットを投入して力業で生命科学や物質科学などの問題を解いている。産と学での研究環境の格差は広がってしまった。このままではまずいと海外では大型研究プロジェクトが組成された。日本の研究者も模索を続けている。
「大きなグラント(競争的資金)に挑戦しないといけない。次のアクションはなにか」―。トヨタ自動車先進技術開発カンパニーの岡島博司主査は知恵を絞る。科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業共通基盤領域のテーママネージャーを務める。同領域はAIやロボットを駆使した研究そのものの革新を目指している。
プロジェクトの期中にも関わらず次の事業について悩むのは、海外大学で大型プロジェクトの組成が相次いでいるためだ。英リバプール大学では化学AIロボットの研究チームが1200万ポンド(約23億円)の投資を受けた。カナダ・トロント大学などのコンソーシアムには毎年2億カナダドル(約220億円)が7年間投資される。ここからインプラント材料や電極触媒、ヒト臓器模倣組織などの自動探索研究プロジェクトが立ち上がった。
トロント大で化学実験ロボットを開発する吉川成輝大学院生は「装置や建物の前に人材獲得が進んでいる」と説明する。化学とロボットとAIなど、異分野の若手を集めてチームを作っている。
カナダでは国際競争力を維持するために不可欠と投資が決まった。米国で膨らむ基礎研究を追うための措置ともいえる。米国は巨大ITなどが開発したAI技術を生命科学や化学などへ応用するのに対し生命科学や化学などが強い分野からAIを取り込む戦略だ。
対してJST事業は1課題当たり数億円と1ケタも2ケタも小さい。ロボットやAIの導入にはコストがかかる。研究者からは挑戦したい研究テーマはいくつも挙がっているが、絞り込んで進めている。
例えば研究自動化では、高速分析装置などの専用機を連携してシステム化するか、汎用ロボットで実験を再現するかで議論になる。前者は高速処理、後者は柔軟性が強みだ。ただ研究資源の制約から、どちらかを選ぶことが多い。下手に組み合わせると双方の強みが消えるためだ。
トロント大は二つのラボを設置した。専用機を中心に自動化を進める研究室と汎用ロボで自動化する研究室を化学の教授が運営している。吉川大学院生は「資金があるから可能」という。理化学研究所の松岡聡計算科学研究センター長は「スパコンとAIは持つ者と持たざる者に分かれていく」と懸念する。これがロボットにも広がろうとしている。