物流変革待ったなし、倉庫から「2024年問題」読み解く
トラックドライバーの残業上限規制に伴い輸送力が不足する「物流の2024年問題」は、運送だけでなく、物流全体に変革を迫る。特に倉庫は物流効率化への貢献が期待されると同時に影響も大きい。ロボット化が進む電子商取引(EC)向け倉庫はごく一部で、大多数は原料などを保管する従来型倉庫だ。多くは中小企業が運営し、新技術導入のハードルは高い。技術だけでは解決できない難しさがある。倉庫から24年問題を読み解く。(梶原洵子)
日本倉庫協会の久保高伸会長(三井倉庫会長)は、「24年問題の解決策の7―8割は倉庫に関係する」と指摘する。政府は24年問題に伴い輸送力が低下する分の多くを「荷待ち・荷役時間の削減」と「積載率の向上」で補う方針だ。倉庫周辺での荷待ちや積み荷を出し入れする荷役に倉庫が関わるだけでなく、倉庫でどのように荷物を積み込むかによって積載率は変わる。
久保会長は、「24年問題の解決に向けて倉庫業界も協力する。だが、心配もある」と明かす。そもそも荷役の対価が曖昧なまま運送業者がサービスとしてやってきたという現場は少なくない。24年問題を受け、トラックドライバーが運送業務に専念するために、再び曖昧なまま倉庫が荷役を背負わされる可能性は否定できない。
倉庫会社は中小企業が多く、運送業者と同様に荷主に対して弱い立場にある。運送業者を守る「トラックGメン」や運送料金の適正化を促す「標準運賃」のような国の仕組みも倉庫業界にはない。
トラックドライバーの残業上限規制が始まった4月以降、「大事件は起きてないが、断片的には問題が聞こえてくる」と久保会長。パレットごと荷物を倉庫に保管して荷役を効率化するため、パレットを長期間保有する倉庫会社がパレット代を負担することを要求する荷主もいるという。
倉庫業界は荷役作業を行うこと自体を否定してはいない。荷主や運送業者としっかり話し合い、請け負う場合は対価が必要だというスタンスだ。「『互いの課題を話し一緒に解決しよう』という前向きな荷主ももちろんいる。業界全体への影響はもう少し見ていく」(久保会長)。
物流全体を効率化する取り組みが、倉庫の効率を下げてしまう可能性もある。例えば、運送時は幅1・1メートルのパレットが使われているが、倉庫内で使われるパレットは幅1・4メートルが多い。面積が広い方が袋状の荷物を何段も高く積めて、倉庫のスペースを有効活用できるためだ。幅1・1メートルに統一されると物流全体を効率化できるが、倉庫では保管できる荷物が減って収入が減る。
倉庫の奥にある荷物を取り出す時は、手前の荷物をパレットごとフォークリフトで動かして奥の荷物を取り出す。フォークリフトの幅は1・1―1・2メートルが一般的で、幅1・4メートルのパレットの場合、荷物の列を1列動かせばフォークリフトは奥に進める。だが、幅1・1メートルのパレットの場合、隣の荷物の列も動かさなければならず、効率が悪い。
また、トラックの荷待ち時間を減らすには倉庫での荷ぞろえが重要だが、荷ぞろえに使うスペースを広げると保管スペースが減って収入が減る。
運送の現場が改善しても、倉庫の現場が弱体化すると、物流は滞る。「とても切実だ。24年問題の影響は倉庫でも顕在化すると思うが、その時に『倉庫屋だけの問題だ』と言われると非常に辛い」と久保会長。24年問題を本当に解決するには、さまざまな影響を理解した上で、荷主を含めた関係者間で負担を吸収する方法などを考える必要がある。
ただ、倉庫は課題だけの業界ではない。久保会長は「倉庫では、在庫や営業の先端の実態が把握でき、先の事が読める。こうした付加価値の高い機能を発揮するべきだ」と話す。久保会長はトヨタ自動車出身で、調達・物流を担当してきた。当時から倉庫の可能性を感じていた。
他にも、倉庫は複数の会社の荷動きを見られるため、共同配送の提案ができるかもしれない。大きな変革のタイミングにきている。