「電池」から「日の丸液晶」の顔に転身する元三洋電機副社長の手腕は!?
車載電池で日米欧の顧客を引っ張っる。「オグシオ」の部長としての顔も
三洋電機で「電池事業の顔」だった本間充氏が、今度は「日の丸液晶の顔」に転身する。本間氏とはいったいどんな人物か?手腕と素顔は?
パナソニックが買収する前の三洋電機には、大株主の三井住友銀行、大和証券SMBCグループ、米ゴールドマン・サックスグループの金融3社からそれぞれ副社長が送り込まれていた。そのような状況の中で、生え抜きの本間副社長は、三洋社員の心のより所にもなっていた。
海外営業のトップを務め、経営再建の切り札となった電池事業では、日米欧の自動車メーへ販路を広げた、2008年には独フォルクスワーゲン(VW)と車載用電池の共同開発にこぎ着けた実績は今でも高く評価されている。
発言内容が明確なので、社員も事業の方向性がイメージしやすい。その端的な例が車載電池事業で、「全方位」という言葉を使ったこと。相手先を特定して言いづらい中で、「他の顧客獲得へのアピールと競合他社へ牽制になる最大限のワードだった」(元三洋社員)。パナソニックの傘下になった後、同社の電池事業のトップになってもおかしくなかったが、「変に三洋社員のフラッグ(旗)になってしまっては融合に支障が出る可能性もある」(パナソニック関係者)という思惑も働いたとみられ、2013年にそのまま退任した。
「自分が自分が」と前に出るタイプではあるが、電池工業会の会長を2007年から三洋電機を辞める2013年まで務めるなど面倒見がいい。また「オグシオ」の愛称で人気選手らが所属した女子バドミントンチームの部長として、会社の業績が苦しい中、3選手が北京五輪への出場を決めたときには、「チームが会社の支えになっている」と選手の奮闘をねぎらい、全社を鼓舞する親分肌である。3社寄り合いのジャパンディスプレイでどれだけ求心力を生むのか、百戦錬磨の海外顧客との交渉、さらには燻り続けるシャープとの統合問題など、本間氏の手腕の見せ所はたくさんある。
(ニュースイッチオリジナル)
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ジャパンディスプレイ(JDI)が、トップ交代に踏み切る。元三洋電機副社長の本間充氏を会長兼最高経営責任者(CEO)に迎えて、有賀修二取締役が社長兼最高執行責任者(COO)に昇格するトップ人事を6月に断行する。主力のスマートフォン向け中小型液晶パネルの成長を加速させるほか、新たに車載市場を開拓していく。中小型液晶業界では、中国勢、台湾勢が急速に存在感を高めている。30%超のシェアを獲得して寡占状態を築けるか。JDIの経営は新たなステージに入る。
【回り出した歯車】
東芝、日立製作所、ソニーの中小型液晶パネル事業が統合し、2012年4月に発足したJDI。初代トップの大塚周一社長は、3社の融合を進め、統合効果を最大限に引き出す事業基盤づくりにまい進してきた。
その歯車は14年夏以降、うまく回り出した感がある。タッチパネル機能を組み込んだ先端パネルを武器にして、中国スマホメーカーとの取引拡大に成功。また米アップルの資金支援を受けて石川県に新工場を建設することも決めた。業績面でも15年3月期は下期にV字回復して、業界では業績の上振れを予測する見方が増えている。
【行動派の新社長】
大塚社長は少しずつ勇退の準備を進めてきた。従来はアップルとのビジネスは大塚社長、韓国サムスン電子は有賀取締役の担当だったが、今は有賀取締役がアップルもカバーする。
また石川県の新工場計画についても「一歩引いて、部下に対応を任せていた」(業界関係者)という。
大塚氏から社長のバトンを受ける有賀取締役は、エプソン出身の元エンジニア。技術に明るいトップとして、エプソンやソニーの液晶子会社の社長を歴任した。「いすを温めることの少ない行動派」(産業革新機構幹部)で、「投資するかしないか迷ったら、投資するタイプ」(業界関係者)という。
一方、会長職に就く本間氏は、三洋電機で電池事業を育成した。経済産業省関係者は「三洋の電池事業が大きくなったのは、本間氏のマネジメント手腕によるところが大きい」と話す。三洋電機では経営危機の修羅場を経験しており、「今やるべきことは何か、冷静に判断できる」と評価する声も上がる。
【中・台勢が猛追】
今後も中小型液晶パネル市場は拡大が見込まれ、中国、台湾メーカーによる新工場が5カ所以上で計画されている。技術面でも中国、台湾メーカーが猛追しており、現地報道によると台湾メーカーのAUOが、アップルのスマホ「アイフォーン」の新モデルに液晶パネルを供給するという。
調査会社ディスプレイサーチ(東京都中央区)によると14年の中小型液晶パネルのシェアトップ3は韓国・LGディスプレー(18・1%)、JDI(16・0%)、シャープ(15・6%)。一般的に半導体や液晶のような装置産業は、3社による寡占状態に入れば市場が安定し、各社が利益をあげやすくなる。JDIは今の地位を固めるため、シェアを30%程度まで高める必要がある。実現にはアップル、中国スマホメーカーとの取引を拡大できるか、自動車のIT化で伸びが期待される車載ディスプレー市場を開拓できるかがカギを握る。
マネジメント力に長(た)けた本間氏、技術に明るく顧客のニーズ対応力に優れる有賀氏―。両氏のコンビネーションが最大限発揮されれば、勝ち組3社への道が拓ける。
<プロフィール>
本間 充氏(ほんま・みつる)70年(昭45)甲南大法卒、同年三洋電機入社。06年取締役、08年取締役副社長、10年代表取締役副社長、13年退任。兵庫県出身。
有賀 修二氏(あるが・しゅうじ)83年(昭58)東京農工大院工学研究科修了、同年諏訪精工舎(現セイコーエプソン)入社。03年取締役。05年三洋エプソンイメージングデバイス社長。11年ソニーモバイルディスプレイ社長。13年JDI取締役。長野県出身。
パナソニックが買収する前の三洋電機には、大株主の三井住友銀行、大和証券SMBCグループ、米ゴールドマン・サックスグループの金融3社からそれぞれ副社長が送り込まれていた。そのような状況の中で、生え抜きの本間副社長は、三洋社員の心のより所にもなっていた。
海外営業のトップを務め、経営再建の切り札となった電池事業では、日米欧の自動車メーへ販路を広げた、2008年には独フォルクスワーゲン(VW)と車載用電池の共同開発にこぎ着けた実績は今でも高く評価されている。
発言内容が明確なので、社員も事業の方向性がイメージしやすい。その端的な例が車載電池事業で、「全方位」という言葉を使ったこと。相手先を特定して言いづらい中で、「他の顧客獲得へのアピールと競合他社へ牽制になる最大限のワードだった」(元三洋社員)。パナソニックの傘下になった後、同社の電池事業のトップになってもおかしくなかったが、「変に三洋社員のフラッグ(旗)になってしまっては融合に支障が出る可能性もある」(パナソニック関係者)という思惑も働いたとみられ、2013年にそのまま退任した。
「自分が自分が」と前に出るタイプではあるが、電池工業会の会長を2007年から三洋電機を辞める2013年まで務めるなど面倒見がいい。また「オグシオ」の愛称で人気選手らが所属した女子バドミントンチームの部長として、会社の業績が苦しい中、3選手が北京五輪への出場を決めたときには、「チームが会社の支えになっている」と選手の奮闘をねぎらい、全社を鼓舞する親分肌である。3社寄り合いのジャパンディスプレイでどれだけ求心力を生むのか、百戦錬磨の海外顧客との交渉、さらには燻り続けるシャープとの統合問題など、本間氏の手腕の見せ所はたくさんある。
(ニュースイッチオリジナル)
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ジャパンディスプレイ(JDI)が、トップ交代に踏み切る。元三洋電機副社長の本間充氏を会長兼最高経営責任者(CEO)に迎えて、有賀修二取締役が社長兼最高執行責任者(COO)に昇格するトップ人事を6月に断行する。主力のスマートフォン向け中小型液晶パネルの成長を加速させるほか、新たに車載市場を開拓していく。中小型液晶業界では、中国勢、台湾勢が急速に存在感を高めている。30%超のシェアを獲得して寡占状態を築けるか。JDIの経営は新たなステージに入る。
【回り出した歯車】
東芝、日立製作所、ソニーの中小型液晶パネル事業が統合し、2012年4月に発足したJDI。初代トップの大塚周一社長は、3社の融合を進め、統合効果を最大限に引き出す事業基盤づくりにまい進してきた。
その歯車は14年夏以降、うまく回り出した感がある。タッチパネル機能を組み込んだ先端パネルを武器にして、中国スマホメーカーとの取引拡大に成功。また米アップルの資金支援を受けて石川県に新工場を建設することも決めた。業績面でも15年3月期は下期にV字回復して、業界では業績の上振れを予測する見方が増えている。
【行動派の新社長】
大塚社長は少しずつ勇退の準備を進めてきた。従来はアップルとのビジネスは大塚社長、韓国サムスン電子は有賀取締役の担当だったが、今は有賀取締役がアップルもカバーする。
また石川県の新工場計画についても「一歩引いて、部下に対応を任せていた」(業界関係者)という。
大塚氏から社長のバトンを受ける有賀取締役は、エプソン出身の元エンジニア。技術に明るいトップとして、エプソンやソニーの液晶子会社の社長を歴任した。「いすを温めることの少ない行動派」(産業革新機構幹部)で、「投資するかしないか迷ったら、投資するタイプ」(業界関係者)という。
一方、会長職に就く本間氏は、三洋電機で電池事業を育成した。経済産業省関係者は「三洋の電池事業が大きくなったのは、本間氏のマネジメント手腕によるところが大きい」と話す。三洋電機では経営危機の修羅場を経験しており、「今やるべきことは何か、冷静に判断できる」と評価する声も上がる。
【中・台勢が猛追】
今後も中小型液晶パネル市場は拡大が見込まれ、中国、台湾メーカーによる新工場が5カ所以上で計画されている。技術面でも中国、台湾メーカーが猛追しており、現地報道によると台湾メーカーのAUOが、アップルのスマホ「アイフォーン」の新モデルに液晶パネルを供給するという。
調査会社ディスプレイサーチ(東京都中央区)によると14年の中小型液晶パネルのシェアトップ3は韓国・LGディスプレー(18・1%)、JDI(16・0%)、シャープ(15・6%)。一般的に半導体や液晶のような装置産業は、3社による寡占状態に入れば市場が安定し、各社が利益をあげやすくなる。JDIは今の地位を固めるため、シェアを30%程度まで高める必要がある。実現にはアップル、中国スマホメーカーとの取引を拡大できるか、自動車のIT化で伸びが期待される車載ディスプレー市場を開拓できるかがカギを握る。
マネジメント力に長(た)けた本間氏、技術に明るく顧客のニーズ対応力に優れる有賀氏―。両氏のコンビネーションが最大限発揮されれば、勝ち組3社への道が拓ける。
<プロフィール>
本間 充氏(ほんま・みつる)70年(昭45)甲南大法卒、同年三洋電機入社。06年取締役、08年取締役副社長、10年代表取締役副社長、13年退任。兵庫県出身。
有賀 修二氏(あるが・しゅうじ)83年(昭58)東京農工大院工学研究科修了、同年諏訪精工舎(現セイコーエプソン)入社。03年取締役。05年三洋エプソンイメージングデバイス社長。11年ソニーモバイルディスプレイ社長。13年JDI取締役。長野県出身。
日刊工業新聞2015年04月27日 電機・電子部品・情報・通信面