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企業が支える地域新電力、岐阜の「恵那電力」のこだわり

企業が支える地域新電力、岐阜の「恵那電力」のこだわり

プール跡地に設置した日本ガイシのNAS電池。ブロックチェーンで太陽光パネルの電気を充電したと分かる

岐阜県恵那市の地域新電力「恵那電力」を日本ガイシや中部電力ミライズ、リコーIHIが支援している。複数の大手企業が技術力を持ち寄ることで課題を解決し、地域のニーズにも応えている。人材やノウハウに乏しい地域新電力にとって企業のサポートは頼もしく、企業も技術を地域の活性化や脱炭素に生かせる。(編集委員・松木喬)

再生エネ地産地消 分散型台帳で”色分け”

恵那市内は山が連なり、里山の風景が広がる。市南部の集落にある坂を上ると平地が現れ、太陽光パネルが並ぶ。下には廃校が見える。坂の上の太陽光発電所はプールの跡だった。太陽光パネルの土台にはコースの名残があり、時計や更衣室の建物も残る。

この太陽光発電所は、恵那電力が設置した。出力は300キロワット。ほかにも市内の小・中学校や給食センターなど9カ所の屋根に太陽光パネルを設置し、発電した電気を市庁舎など62の公共施設に供給している。

恵那電力は市、日本ガイシ、中部電力ミライズが21年に設立した。再生可能エネルギーの地産地消による経済活性化や環境教育、災害対応への貢献を目指す。太陽光パネルの電気は、市内にある日本ガイシ子会社の工場でも使っている。

プール跡地の発電所では、日本ガイシ製のナトリウム硫黄(NAS)電池も稼働中だ。1200キロワット時の容量があり、停電時には周辺に電力供給ができる。特定の地区で発電と送電を完結させるマイクログリッドを既存の送電網で構築した全国でも先進的な地区だ。

恵那電力の発電所の一つ、山岡小学校の屋上太陽光発電

事業を準備している当時、恵那電力の村本正義社長(日本ガイシエナジーストレージ事業部管理部長)は「NAS電池の電気を“色分け”できないか」と考えていた。離れた施設に送った電気も、元をたどるとNAS電池に充電した太陽光由来の電気と証明できれば、地産地消を発信しやすい。恵那市も市民への啓発を考え、環境貢献の可視化にこだわっていた。

発電所とひも付いた非化石証書付きの電気を購入することで、電気の種類を識別できる。ただ、国が管理する非化石証書は制度上、発電所が後付けになるイメージ。恵那電力の太陽光発電所は再生エネ固定価格買い取り制度(FIT)を利用しない“自社電源”だが、手続きとして非化石証書を入手する必要がある。

リアルタイムでひも付ける方法を探すうち、リコーの技術が目にとまった。同社はブロックチェーン(分散型台帳)を駆使し、発電から消費まで電気を追跡できるシステムを開発していた。導入してモニターに表示すると、恵那市の文化センターが使用中の電気が、給食センターとこども園の太陽光パネルから届いていると分かる。他の施設も、どこから来た電気を使っているのか識別できた。モニター表示で市民の環境意識も高まる。

恵那電力が縁となって日本ガイシとリコーは23年2月、地域新電力を技術支援するNRパワーラボ(名古屋市千種区)を設立した。新会社の中西祐一社長は「蓄電池の制御に知見がある日本ガイシと、デジタル技術を持つリコーの強みをかけ合わせる」と語る。

日本酒製造に「クレジット」

2社に続き、IHIも恵那電力の支援に加わった。IHIは二酸化炭素(CO2)削減量を算出するデジタル技術を持っており、ブロックチェーンの電力データとのかけ合わせで公共施設のCO2削減量が分かる。恵那市はCO2削減量を取引可能な「J―クレジット」にして、地元企業に販売する。再生エネの価値を可視化する取り組みであり、NRパワーラボの黒田幹朗シニアエンジニアは「デジタル技術でJ―クレジット発行の手間を簡略化できる」と語る。

J-クレジット利用の日本酒「女城主」

J―クレジットを購入した地元の岩村醸造は、日本酒の生産に関連したCO2を打ち消している。酒蔵は景観条例によって太陽光パネルを設置できないが、J―クレジットによって間接的に地域の再生エネ利用をPRできるようになった。

NRパワーラボは4月、全国16の地域新電力との連携を始めた。新たに新興企業なども参加し、地域新電力の収益が最大になるように運営を支援する。地域新電力の要望に応える技術を持つ企業は多く、地方創生に貢献できる。


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日刊工業新聞 2024年04月19日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
はじめて東濃地方に行きました。岩村城や恵那峡を観光したかったですが、あいにくの雨でやめました。それにしても里山が広がるきれいな街でした。こうした地方都市が持続可能になるために、企業の技術力やビジネスの力を生かせたら良いと思いました。

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