ニュースイッチ

データ可視化で年45万L削減、武田薬品が実現した水を効率活用する仕組み

データ可視化で年45万L削減、武田薬品が実現した水を効率活用する仕組み

残量を可視化し、効率的に使用する(蒸留水のタンク)

医薬品の製造において、資源を効率的に活用する取り組みが進む。武田薬品工業は注射製剤やバイオ医薬品など多くの製品を手がける大阪工場(大阪市淀川区)で、データ利活用による蒸留水の使用量を可視化し、年間45万リットル以上を削減した。効率的に水を使える体制の構築により、大規模な設備投資をせずに医薬品の製造能力の向上が可能となった。こうしたシステムを他の製造拠点に横展開することで、さらなる効率化も狙う。(安川結野)

医薬品の製造では、設備や機器の洗浄やさまざまな工程において、蒸留水が必要となる。製品需要に対応して増産すると蒸留水の使用量も増加する。蒸留水が不足すると製造が停止するため、同時に蒸留水の製造能力も上げる必要がある。一方で、設備投資には多くのコストがかかるほか稼働までに時間も要するため、需要への迅速な対応が難しいという課題があった。

武田薬品の大阪工場では、技術チームとデータサイエンティストが協働し、データとデジタルを活用した蒸留水の使用状況を管理するシステムを構築。蒸留水のタンクや供給する配管にセンサーを設置して各工程で使用する蒸留水の量や稼働状況を可視化した。

上部の配管にセンサーを設置

製造部でデジタル変革(DX)を担当する神田貴仁氏は、「蒸留水は洗浄のたびに未使用分も廃棄してしまう。同時に稼働する必要がない工程は実施するタイミングをずらしたり、残量を効率的に使用するよう生産を最適化したりすることで、蒸留水の枯渇リスクを低減しながら効率的に使用できる」と説明する。これまで年間10―15回ほど発生していた蒸留水の不足がなくなり、蒸留水の削減にもつながった。また、蒸留水の製造に使う都市ガスも7900立方メートル以上削減した。

医薬品は医療に欠かすことができず、安定供給が必須だ。一方で、水資源の依存度が高く、持続的に事業を続けるには環境負荷低減も重要な課題とされる。武田薬品は2025年度までに19年度比で取水量5%削減する目標を掲げ、グローバルで環境負荷低減に取り組む。大阪工場での取り組みを、成田工場(千葉県成田市)や光工場(山口県光市)など国内の製造拠点に展開し、さらなる効率化と環境負荷低減に力を入れる。

日刊工業新聞 2024年4月18日

編集部のおすすめ