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太陽光パネル大量廃棄時代に備える。中部電力系が事業化に先手

太陽光パネル大量廃棄時代に備える。中部電力系が事業化に先手

中部電力系のシーエナジーの太陽光パネルのリサイクル装置。愛知海運と共同でスタートした

太陽光パネルの廃棄量が2030年代後半にピークを迎えることを見越し、リサイクル事業に乗り出す動きが広がっている。早期参入による先行者利益を狙い、中部電力のグループ会社が23年末にリサイクル事業を開始。廃棄物処理を手がける中小企業も参入が相次ぐ。ただ、再資源化技術の弱さから足元の収益性が高いとはいえない。資源の用途拡大やシリコンの再資源化を実現し、持続可能な循環経済の構築が求められる。(永原尚大)

日本国内の太陽光パネルは、12年の再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)開始により急増した。製品寿命はおおむね20―30年のため、廃棄量は今後増加することが確実だ。

こうした中、中部電力系で大規模太陽光発電所(メガソーラー)を運営するシーエナジー(名古屋市東区)は23年末、愛知海運(名古屋市港区)と共同でリサイクル事業を始めた。約1億5000万円を投じ、愛知県蒲郡市にある愛知海運の空き倉庫に専用装置を置いた。ケーブルを取り除いた太陽光パネルを1日最大約470枚処理できる。

太陽光パネルは金属枠とガラス、半導体を含むセルシートで構成する。金属枠からはアルミニウム、セルシートからは銀を回収できる。シーエナジーは「リサイクルによってほぼ全てを売却するか原材料に活用できる」と説明する。まずはシーエナジーのメガソーラーで生じた、破損や性能不良により廃棄するパネルを年間200枚程度処理するほか、中部電系やその顧客から受注を狙う。

だが、事業の黒字化目標は31年以降に設定する。シーエナジー担当者はその理由として「処理枚数の少なさとリサイクル資源の価格が安いこと」を挙げる。事業収入は廃棄者から得る処理費用と再生資源の販売価格で成り立っており、資源価格の安さこそが黒字化の大きな課題だ。

廃棄パネルから分別したガラスカレット。土木資材などに再利用できるという。

注目すべきはガラス端材。重量比で6割を占める素材で土木資材に再利用できるが、再資源化した時の価格は1キログラム当たり数円という。有害物質のアンチモンが含まれるためガラスとしての再利用が難しい点が原因だ。不純物を取り除き、安全なガラスとして使えるようにする技術が必要だ。

セルシートからシリコンを回収する技術も収益性向上に必要だ。ドイツのフラウンホーファー研究機構や豪州のディーキン大学はシリコンの再資源化に取り組んでおり、こうした回収技術を実用化すればリサイクルする利点は高まる。

環境省によるとリサイクル処理費用の相場は1枚当たり3000円程度。安価な破砕処分と比べて高く、処分コストのみで考えるとリサイクルは選択肢から外れやすい。経済産業省は24年1月末に公表した太陽光パネルの廃棄・リサイクルのあり方の中間取りまとめで「素材ごとに回収できる高度な技術の確立と処理費用の低減を進める必要がある」と指摘する。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、国内のパネル排出量は35―37年ごろにピークを迎えるとされ、年間約17万―28万トン程度となる見込み。産業廃棄物処分量の1・7―2・7%に相当する量という。

こうした状況を受け、新菱(北九州市八幡西区)は23年に北九州市でリサイクル工場を稼働させた。加山興業(愛知県豊川市)など産業廃棄物処理を手がける中小企業もリサイクル事業に乗り出している。先行してリサイクル技術の確立や顧客の確保に動き出した格好だ。

ただ、廃棄パネルのリサイクル市場は立ち上がったばかりの状態だ。リサイクルする利点を高め、事業者に引き渡しやすくする市場形成が必要になりそうだ。

日刊工業新聞 2024年04月03日

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