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「鴻海に決めた取締役は責任をとれ」革新機構案を支持したシャープ幹部が怒り心頭

<追記>鴻海との買収条件見直し。取引先にも不安と期待
 シャープの先行きが今なお不透明だ。2月下旬の取締役会で台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業への傘下入りを決めたが、シャープの債務リスク浮上で、買収条件見直しを迫られている。対案だった政府系ファンドの産業革新機構からの買収案を支持したシャープ幹部は最終契約のもたつきに、「決めた取締役は責任をとれ」と怒り心頭だ。電機業界や取引先には期待と不安が交錯している。

 シャープは鴻海傘下入りを決議する直前に、将来顕在化の恐れがある3000億円超の「偶発債務」リストを鴻海へ送った。これが要因となり、鴻海は出資額引き下げや、シャープ主力取引銀行に支援などを求めている。

 鴻海はシャープを通じ「米アップル向け有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)パネルの受注獲得」(鴻海幹部)という目的があり、買収撤回の意思はない。鴻海はアップル製品の組み立てが中核事業で「パネル供給も実現し、鴻海のサプライヤーとしての地位をあげる」(液晶業界関係者)狙いだ。

アップルにも振り回される


 アップルの有機EL採用通達に各社、右往左往している。ある装置メーカー首脳は「有機ELパネルの先導役は何度も痛い目に遭わされたアップルのみ。踊らされ過ぎていないか」と警鐘を鳴らす。

 鴻海はシャープの買収でパネル以外の事業には大した興味がなく、家電やロボット、複写機への成長投資は当初案から減額される可能性もある。しかも鴻海は「白物家電は素人」(鴻海幹部)でシナジーも見えない。

販売店「倒れないなら誰が買収しても良かった」


 それでも「シャープが倒れないなら誰が買収しても良かった」と、方向性が固まったことに家電向け部材メーカー幹部は安心する。国内電機大手は物量に勝る韓国勢や中国勢などに対し劣勢。また家電以外の事業に傾注し、家電サプライヤーの多くが影響を受ける。

 家電量販店などの販売現場は早期決着を望む。「サービス体制が今後変わる可能性があり、シャープ製品を正直勧めにくい」と販売員は吐露する。家電向けサービス工具を納める工具メーカー幹部も「鴻海の出方が読めない」と、今後の取引継続に不安を感じる。

 経営陣の判断ミスが続くシャープだが、技術とアイデアには定評がある。パナソニック幹部は「白物家電は頑張っている。目新しい商品を出し、インドネシアも強い。資金支援で事業は落ち着く。切磋琢磨(せっさたくま)したい」とエールを送る。シャープに鴻海以外の選択肢は残っていない。社員はじめ、ステークホルダー(利害関係者)は疲弊しきっており、早期決着が望まれる。
(文=大阪・松中康雄)
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日刊工業新聞2016年3月24日 電機・電子部品面
安東泰志
安東泰志 Ando Yasushi ニューホライズンキャピタル 会長
産業革新機構案は、債権放棄を含んでおり、株主利益の点で鴻海案より優れていたほか、債務が削減されるため、シャープの長期的な独り立ちにも寄与したと思われる。支援総額はほぼ同額だったが、鴻海が増資額を引き下げると、これも産業革新機構案の方が多かったことになる。判断を歪めたのは、銀行支配下の取締役会が株主利益より銀行の利益を求めたところにある。鴻海傘下入りが成立したとしても、シャープは単体として多額の有利子負債を抱えたままになるので、なかなか新規投資や人件費増加は見込めない。銀行は目先の利は取れても、今後の債権保全のためには、長期に亘って鴻海の顔色を伺う必要がある。

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