「パラスポーツ」官民挙げ振興
東京都は障がい者スポーツ振興予算を12倍に
2020年東京オリンピック・パラリンピック大会に向け、出場選手の発掘や選手を積極採用する企業が続々と現れてきた。舛添要一都知事は「パラリンピックの成功なくして20年大会の成功はあり得ない」と語り、誰もがスポーツに親しむ「スポーツ都市東京」実現に向け、障がい者スポーツ(パラスポーツ)振興の強化を打ち出した。パラスポーツ振興の機運が高まる官民の今の動きを追った。
東京都の16年度障がい者スポーツ振興予算は15年度比12.3倍の258億円と、3年目に入った舛添都政の中で力を入れる重点分野のうちの一つだ。「東京都障害者スポーツ振興基金」(200億円)を設けて財源を確保したほか、20年大会に出場が期待できる選手の発掘にも力を入れる。特別支援学校の体育施設を活用した活動拠点の拡充や、選手の競技力を向上させる「東京都強化指定選手」認定・支援も本格化する。
中堅企業を含めて民間企業の後押しも進む。採用面では日本オリンピック委員会(JOC)の就職あっせん事業「アスナビ」の活用が増えてきた。14年8月にパラリンピック強化選手にも就職あっせんを適用する協定を日本パラリンピック委員会(JPC)と結んで以降、3月1日時点で15人が採用されている。
あいおいニッセイ同和損害保険は、14年11月、独自に障がい者選手採用制度をつくり、1年ごとに更新する嘱託社員契約で卓球(知的障がい)、車いすラグビー、車いすダンス、デフサッカー(聴覚障がい)の4人が在籍する。アスナビ経由では3月に宮崎哲選手(22歳・水泳、知的障がい)、4月に小野智華子選手(20歳・水泳、視覚障がい)が入社する。6日の春季静岡水泳記録会で2人とも日本身体障がい者水泳連盟・日本知的障害者水泳連盟から16年リオ大会の日本代表候補に推薦された。
倉田秀道経営企画部次長は「静岡では社員40人が一丸となり応援した。2人の頑張る姿を見て感じることがあったと思う。根本的な部分で社員の意識が変わる。良い作用が働き、会社も変わる。それがレガシー(遺産)になる」と語る。
強化費用補助や報奨金額を厚くするだけでなく、引退後の安定雇用に向けた支援と準備も進む。首都圏に分散するシステム関連会社を10月には新宿区の高田馬場に集約する。
小野選手は企業内理療師(ヘルスキーパー)を目指すことから「リオ後は学校の先輩にあたる社員に教わりながら両立させて頑張ってほしい」と倉田次長。アスナビ、社員独自紹介、紹介会社の、三つの採用ルートを通じて16年度も5人程度採用する計画だ。
乃村工芸社は14年度にスポーツ文化事業部を新設し、アスナビ経由でパラ・パワーリフティングの西崎哲男選手(38歳)を採用した。本拠地の大阪事業所内にトレーニングルームを整備済みで、存分に練習に打ち込める環境を確保している。「西崎選手に刺激を受け、何かやってみようと思う社員も出てきた」(花田孝之人材開発部次長)。
東京都のパラアスリート発掘プロジェクトに参加したり、体を鍛え始める社員も現れたという。西崎選手は「会場で応援していただいているので、少しずつでも返していきたい」と、20年東京大会に向け、練習を積んでいる。
西崎選手の入社後、同競技への理解を深めたり、応援などで事業部を越えた社内交流も活発化した。会場レイアウトを洗練された空間にしつらえるなど、本業の会場設営ビジネスへ波及効果も表れ始めた。「勝ちが選手だけでなく、我々も共有でき、社員みんなの勝ちになる。ウィン-ウィンの関係で会社の発展につながる」と花田次長は語る。
三菱商事は1970年代から障がい者支援を企業責任として推進する。79年に福祉分野で重度身障者の職能開発に力を入れ始め、プログラマーやシステムエンジニアとして就労するための授産施設をサポートする太陽の家(大分県別府市)への協力を始めた。83年12月には太陽の家と共同出資で特例子会社の三菱商事太陽を設立。三菱商事の15年度障がい者雇用率は2.19%と、法定雇用率(2.0%)を上回っている。
スポーツ分野では、15年10月-11月に実施されたウィルチェアーラグビー(車いすラグビー)の地域選手権大会「三菱商事2015IWRFアジア・オセアニアチャンピオンシップ」に協賛したほか、大分国際車いすマラソン大会へは91年から協賛するなど、競技大会への関わりも長い。
創立60周年の節目の14年1月、障がい者スポーツ支援のさらなる充実を目指して「ドリームアズワン」プロジェクトを開始。「ドリームクラス」では、東京YMCAと共同で月1回、障がいのある子と親を集め、自由に体を動かしてもらう取り組みを始めた。スポーツをする側の裾野を広げるのが狙いだ。環境・CSR推進部社会貢献チームの担当者は「萎縮せずに気兼ねなく運動できる場を提供し、個別にアスリートを目指すきっかけになる」とみる。
大会ではボール拾いや会場整理、マットの片付けをするボランティアの確保も必要だ。同社はセミナールームを会場として、一般も参加できるボランティア養成講座(初級編)をこれまで5回開き、計150人のボランティアを育成した。修了後は、東京都障害者スポーツ協会に登録すると、同協会主催の大会にボランティアとして参加ができる。
20年大会の種目は22と多く、マラソンのガイドランナーなど、ほかにも一般の企業人が手伝える場面はまだまだたくさん存在する。支援と理解が広がることで、大会成功に向けて一歩ずつ近づいている。
(文=大塚久美)
東京都の16年度障がい者スポーツ振興予算は15年度比12.3倍の258億円と、3年目に入った舛添都政の中で力を入れる重点分野のうちの一つだ。「東京都障害者スポーツ振興基金」(200億円)を設けて財源を確保したほか、20年大会に出場が期待できる選手の発掘にも力を入れる。特別支援学校の体育施設を活用した活動拠点の拡充や、選手の競技力を向上させる「東京都強化指定選手」認定・支援も本格化する。
中堅企業を含めて民間企業の後押しも進む。採用面では日本オリンピック委員会(JOC)の就職あっせん事業「アスナビ」の活用が増えてきた。14年8月にパラリンピック強化選手にも就職あっせんを適用する協定を日本パラリンピック委員会(JPC)と結んで以降、3月1日時点で15人が採用されている。
あいおいニッセイ、引退後の雇用も支援
あいおいニッセイ同和損害保険は、14年11月、独自に障がい者選手採用制度をつくり、1年ごとに更新する嘱託社員契約で卓球(知的障がい)、車いすラグビー、車いすダンス、デフサッカー(聴覚障がい)の4人が在籍する。アスナビ経由では3月に宮崎哲選手(22歳・水泳、知的障がい)、4月に小野智華子選手(20歳・水泳、視覚障がい)が入社する。6日の春季静岡水泳記録会で2人とも日本身体障がい者水泳連盟・日本知的障害者水泳連盟から16年リオ大会の日本代表候補に推薦された。
倉田秀道経営企画部次長は「静岡では社員40人が一丸となり応援した。2人の頑張る姿を見て感じることがあったと思う。根本的な部分で社員の意識が変わる。良い作用が働き、会社も変わる。それがレガシー(遺産)になる」と語る。
強化費用補助や報奨金額を厚くするだけでなく、引退後の安定雇用に向けた支援と準備も進む。首都圏に分散するシステム関連会社を10月には新宿区の高田馬場に集約する。
小野選手は企業内理療師(ヘルスキーパー)を目指すことから「リオ後は学校の先輩にあたる社員に教わりながら両立させて頑張ってほしい」と倉田次長。アスナビ、社員独自紹介、紹介会社の、三つの採用ルートを通じて16年度も5人程度採用する計画だ。
乃村工芸社、選手に社員が刺激受ける
乃村工芸社は14年度にスポーツ文化事業部を新設し、アスナビ経由でパラ・パワーリフティングの西崎哲男選手(38歳)を採用した。本拠地の大阪事業所内にトレーニングルームを整備済みで、存分に練習に打ち込める環境を確保している。「西崎選手に刺激を受け、何かやってみようと思う社員も出てきた」(花田孝之人材開発部次長)。
東京都のパラアスリート発掘プロジェクトに参加したり、体を鍛え始める社員も現れたという。西崎選手は「会場で応援していただいているので、少しずつでも返していきたい」と、20年東京大会に向け、練習を積んでいる。
西崎選手の入社後、同競技への理解を深めたり、応援などで事業部を越えた社内交流も活発化した。会場レイアウトを洗練された空間にしつらえるなど、本業の会場設営ビジネスへ波及効果も表れ始めた。「勝ちが選手だけでなく、我々も共有でき、社員みんなの勝ちになる。ウィン-ウィンの関係で会社の発展につながる」と花田次長は語る。
150人のボランティアを育成した三菱商事
三菱商事は1970年代から障がい者支援を企業責任として推進する。79年に福祉分野で重度身障者の職能開発に力を入れ始め、プログラマーやシステムエンジニアとして就労するための授産施設をサポートする太陽の家(大分県別府市)への協力を始めた。83年12月には太陽の家と共同出資で特例子会社の三菱商事太陽を設立。三菱商事の15年度障がい者雇用率は2.19%と、法定雇用率(2.0%)を上回っている。
スポーツ分野では、15年10月-11月に実施されたウィルチェアーラグビー(車いすラグビー)の地域選手権大会「三菱商事2015IWRFアジア・オセアニアチャンピオンシップ」に協賛したほか、大分国際車いすマラソン大会へは91年から協賛するなど、競技大会への関わりも長い。
創立60周年の節目の14年1月、障がい者スポーツ支援のさらなる充実を目指して「ドリームアズワン」プロジェクトを開始。「ドリームクラス」では、東京YMCAと共同で月1回、障がいのある子と親を集め、自由に体を動かしてもらう取り組みを始めた。スポーツをする側の裾野を広げるのが狙いだ。環境・CSR推進部社会貢献チームの担当者は「萎縮せずに気兼ねなく運動できる場を提供し、個別にアスリートを目指すきっかけになる」とみる。
大会ではボール拾いや会場整理、マットの片付けをするボランティアの確保も必要だ。同社はセミナールームを会場として、一般も参加できるボランティア養成講座(初級編)をこれまで5回開き、計150人のボランティアを育成した。修了後は、東京都障害者スポーツ協会に登録すると、同協会主催の大会にボランティアとして参加ができる。
20年大会の種目は22と多く、マラソンのガイドランナーなど、ほかにも一般の企業人が手伝える場面はまだまだたくさん存在する。支援と理解が広がることで、大会成功に向けて一歩ずつ近づいている。
(文=大塚久美)
日刊工業新聞2016年3月21日 中小・ベンチャー・中小政策面