ニュースイッチ

住友金属・JX金属が実装加速…「プリンテッドエレクトロニクス」普及のカギ

住友金属・JX金属が実装加速…「プリンテッドエレクトロニクス」普及のカギ

住友金属鉱山が開発した微粒銅粉(左)と導電性インクを印刷したフィルム状基材

プリンテッドエレクトロニクス(PE)の実装加速に向けて、非鉄各社が研究機関と連携し、インクなどの材料や印刷プロセスの開発を進めている。脱炭素の潮流により、省資源・省エネルギー化や、環境負荷の低い材料・製造プロセスが求められる中、同技術の活躍の場が広がることが期待されている。材料・工程の最適化や、従来採用されてきた配線形成技術と差別化できるような用途探索が普及のカギとなる。(狐塚真子)

住友金属鉱山は2020年ごろからPE向け銅粉の開発を開始。PEはフィルムへの印刷も可能だが、基板が耐え得る低温焼結性を持つ同社の銅粉を生かせるとの読みがあった。現在は物質・材料研究機構(NIMS)とインクの開発を進める。

NIMSが開発するのは焼結の際に金属が還元析出する銅―ニッケル錯体インク。銅インクは銀と比べ安価だが、酸化しやすいためニッケルで抑制する。これに微粒銅粉を加えることで厚膜形成を可能にした。「大面積や大電流を流せることを売りに」(住友金属鉱山粉体材料事業部の大上秀晴プロダクトマネージャー)モビリティー分野などへの展開も検討する。

今回開発したインクで形成された配線は、銅単独のインクによる配線と比べ、大気下180度Cの環境において体積抵抗率の上昇を約5分の1に抑制できた。現在、銅粉は新居浜研究所(愛媛県新居浜市)においてラボベースで生産する。利用の広がりを見越し、24年度から量産試作を始める予定だ。

JX金属が作製した銅インク(左)と銅微細配線(配線の出典:Yuji Kasashima et al.,Jpn.J.Appl. Phys.61,SE1001〈2022〉)

JX金属は産業技術総合研究所(産総研)とPEでの配線形成技術の開発を推進。両者は微細配線形成が可能な点を強みとする。

産総研はインクの焼結と印刷技術で知見を提供。現在PEで基本のスクリーン印刷法を高度化させるため、シリコーンゴム転写体にインクを乗せた上で基板に転写する「スクリーンオフセット印刷法」を用いる。転写体にインク中の溶剤成分が吸われることで細線化が可能になるが、「インク側もこれに合わせた材料開発が必要で、両者の合わせ技になっている」とJX金属機能材料事業部の赤木健太郎技師は話す。

スクリーン印刷では従来30マイクロメートルの線幅が安定的に量産できる限界とされているが、両者は6マイクロメートルの配線形成を達成。透明導電フィルムやアンテナなどの用途展開を見据える。

PEは従来からも国内外で研究開発が行われているが、「広がらないのは用途が見つかっていないから」「エンドユーザーのニーズがない」との声も聞かれる。また現時点では、エッチングで回路形成する工程のほうが、抵抗値は低いとされる。従来法とすみ分けを行い、用途探索を進めることもPEの普及につながりそうだ。

日刊工業新聞 2024年02月14日

編集部のおすすめ