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ビジネスの縁も取り持つ…一度は行ってみたい出雲大社の〝縁結びスポット〟

ビジネスの縁も取り持つ…一度は行ってみたい出雲大社の〝縁結びスポット〟

情熱的な縁結びの神様・大国主大神の像

島根県出雲市といえば、誰もがまず思い浮かべるのが出雲大社だろう。三重県の伊勢神宮と並ぶ、日本の二大神社の一つだ。毎年旧暦10月(だいたい11月)は全国の神様が出雲に集まって“神議り”(かみはかり)という会議を行う。諸説あるが、旧暦10月の他の地域の神様は出雲へ出向くので“神無月”(かんなづき)になり、出雲だけが“神在月”(かみありづき)と呼ばれるとか。

そして、出雲大社にまつられる大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)は縁結びの神として有名。縁結びといっても、恋愛だけでない人と人の出会い、趣味やビジネスの縁などあらゆるつながりを取り持つ。そんな“縁結びスポット”といわれる場所を紹介したい。

稲佐の浜での神迎祭は一生に一度は見てみたい

旧暦10月11日から17日まで、日本中の神様が集まって会議をする神在祭が行われる。その口火を切るのが、神迎祭(かみむかえさい)と呼ばれる神事が開催。この時期に出雲を訪れたならばぜひ見てほしい(ちなみに2024年の神迎祭は11月10日(日)に開かれる)。

神迎祭は国譲り神話や国引き神話ゆかりの場所・稲佐の浜で19時から行われる。

浜は松明の灯りのみで照らされ、荘厳な雰囲気の中で神々を迎える。注連縄(しめなわ)が張り巡らされた斎場の中に神籬(ひもろぎ)が2本、そばには神々の先導役となる龍蛇神が海に向かって配置され、神事を斎行(さいぎょう・潔斎して神に仕える)。

※神籬…神事を神社ではない場所で行う際に臨時に神を招くための依り代のこと
神迎祭の神事の様子

神事が終わると龍蛇神が再び先導し、稲佐の浜から出雲大社への「神迎の道」に延々と参拝者の行列が続く。龍蛇神は、暖流に乗って回遊し浜に打ち上げられたセグロウミヘビが奉納されたもの。最近ではこのウミヘビが打ち上がることが少なくなっているそうで、希少性の高い存在に。

出雲唯一の人力車でパワースポットを巡ってみる

神迎祭の後は出雲大社で様々な祭が催される。境内の摂社以外は出雲唯一の人力車「雲州人力社中」の糸賀太郎さんのガイドで回るのもおすすめだ。彼は地元大社町の出身で、京都の観光専門学校を卒業後、清水寺などの周辺を走る大手人力車の会社で10年働いた。途中ワーキングホリデーでオーストラリアに滞在。帰国後は、英語力の必要性を痛感し、外国語大学の夜間部の学生と車夫を両立させる。

その後コロナ禍で打撃を受けた地元に貢献したいと考え、2021年に島根県にUターン。中学時代の友人のサポートを受け「雲州人力社中」を立ち上げた。長年人力車夫として鍛えた脚力がすばらしく、どんな細い道でも坂道でも、交通量の多い道路であってもスムーズに駆け抜ける。通りすがりの住民や観光客に丁寧に挨拶する姿も実に爽やか。その見事な走りと接客ぶりが有名ホテルの目にとまり、2023年4月にはホテル主催の夜桜巡り夜行人力車の車夫も務めた。

「縁結びを願って出雲に来る方は、女性客が多いイメージですが、男性もこの時期運気を高めるためにいらっしゃる方もたくさんいます。ぜひ皆さんに出雲を楽しんでいただきたいと思います」と糸賀さんは笑う。

人力車は気恥ずかしいけれど、一度乗るととても快適。そこで糸賀さんに人力車で回る「あらゆる運気を上げるスポット」を巡ってもらった。

糸賀太郎さんと人力車

良い縁結びは、まずは健康祈願から

まずは出雲大社境内の近く、観光客がほとんど来ない「真名井の清水」へ。真名井とは湧き水に対する最大の敬称で、水は出雲大社の「古伝新嘗祭」(こでんしんじょうさい)で使用される。そこで清水にある石を噛む「歯固めの儀」という儀式もあり、出雲国造(宮司)の霊力を高め健康長寿を祈願するのだ。運気の上昇と健康は切っても切れない関係にある。

「健康を願って遠方から水を汲みに来る方も多いです。出雲大社の神職さんは『自己責任でお飲みください』と言っており、僕はガブガブ飲んでいます(笑)。心配な方は水を一度煮沸してからいただくのもいいかもしれません」(糸賀さん、以下同)

大きなことを成し遂げたい時、“右腕”との出会いを願う

湧き水からすぐ近くの出雲大社の摂社「命主社」(いのちのぬしやしろ)へ向かう。「出雲大社に負けないくらいの圧倒的なスポットです!」と糸賀さんは断言する。

正式な名称は「神魂伊能知奴志神社(かみむすびいのちぬしのかみのやしろ)」。古事記によると、天地開闢(世界のはじまり)で姿を現した3人の神の一人、神皇産霊神(かみむすびのかみ)がここにまつられている。「この神様は大国主大神が兄弟たちの謀略によって殺された時、別の神様を派遣して大国主大神を蘇生させたそうです。だから“命主社”と命名されたのです」とのこと。何か大きなことを成し遂げたいとき、自分の力だけでは難しい場合がある。そんな時に自分の右腕になってくれるようなブレーン、つまり大国主大神にとっての神皇産霊神のような存在がいたらどんなに心強いか。そんなかけがえのない大事な“相棒”との出会いを求めていたら、ぜひ参拝してほしい。

命主社

同社の大きな特徴は2つあり、一つは裏の竹林の中にある巨岩。その前に社が建てられているので、古代の磐座(いわくら=神の御座所。自然の巨石をさす場合が多い)が神社に発展した例として貴重だ。

2つ目は社の前の推定樹齢1000年の巨大な椋(むく)の樹。高さ17m、根元周りが12m、さらに2mも根が地面から上がっている威風堂々と姿に見惚れる。「地元の人々は親しみを込めて『いのっつぁん』と呼んでいます。子供のお宮参りなどで出雲大社にいらっしゃることが多いのですが、帰りにここに来て木の根に子供の足をつけるんです。いのっつぁんのように太く長く健康な子でありますようにと願うのです」と糸賀さんは案内する。もし大人の足をつける場合は、素足をきれいに浄めよう。

社の前の巨大な椋の樹

八百万の神々が集まって、縁結びの会議を行う上の宮

その後は人力車で10分ほど走って出雲大社の境外摂社・上の宮(かみのみや)へ向かう。まつられているのは、大国主命の義理の父・素戔嗚尊(すさのおのみこと)と八百万の神々。「ここは神在祭でとても重要な場所。なぜなら神様が一堂に会して会議をするからです」と糸賀さん。冒頭の“神議り”が開催されると聞くと大きな社を想像してしまうが、とても素朴で小ぢんまりとしている。ここに集まった神様たちは、人と人との縁結び、来年の収穫についても話し合うのだそう。来年の収穫は、仕事、結婚、就職などと考えてもいいかもしれない。ふだん社の扉は閉じられているが、神迎祭になると開かれて、中の様子を拝見することも可能だ。

八百万の神々がここで会議をする

夕陽が沈んでいく稲佐の浜も幻想的

そして最後は神迎祭が開かれる「稲佐の浜」へ。祭が挙行されているときは神々しい雰囲気だが、昼間は穏やかな浜辺といった感じ。海を司る豊玉毘古命(とよたまひこのみこと)をまつる祠(ほこら)がある弁天島に向かって参拝しよう。夕方になれば、弁天島がシルエットになり海に溶けるように沈む夕陽が見られる。「日が沈む聖地出雲」として日本遺産にも登録された。

「高天原から派遣された建御雷神(たけみかづちのかみ)と国譲りの交渉をした神話の舞台としても知られています。浜から約50メートル山手にある屏風を立てたような岩の陰が、話し合いの場だったそうです」

稲佐の浜の弁天島

ふだん触れることのない神話の世界に浸りに、そしてあらゆる縁結びを願って出雲を訪れてみてはいかがだろう?(ライター=東野りか)

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