好評「地方発のロングセラー!」食品機械編―長く使われ、作られる秘密
大分・煎餅焼成機、広島・無水鍋、福岡・菓子用オーブン。こだわりの性能とは?
好評の地方発ロングセラーシリーズ。今回は食品作りに欠かせない機械、調理器具。今、日本の食文化は世界から高い評価を受けているが、料理とモノづくりの職人技術は同期しているのは間違いない。こだわりの3点を紹介する。
【大倉菓機、オーダーメードの煎餅焼成機】
大分銘菓の臼杵煎餅(せんべい)や長崎県雲仙市の湯煎餅などの量産機として、長く愛用される大倉菓機の煎餅焼成機。顧客ニーズに応じたオーダーメードで、顧客と膝を突き合わせて完成させるモノづくりの傑作だ。
発売したのは1955年。焼き板に生地を載せ、上下から均一にプレスして焼き上げる。でんぷんや小麦粉の煎餅、ゴーフレットが作れる。熱源はガスと電熱の2種類。焼き板2枚を横1列に組み合わせた半自動の2丁掛けから、最大14丁掛けの全自動ロータリー式がある。14丁掛けでは厚さ2ミリ―4ミリメートルの煎餅を1時間に2000枚程度焼き上げる。
価格は2丁掛けで180万円から。年間で5、6台と数が多く出る製品ではないが「6次産業化の追い風を受けて、顧客からの相談は増えている」(大倉崇史専務)と、今後も期待できる。
相談に対しては、煎餅に適した食材を知り尽くした同社だからできる食材選び、試作開発などをアドバイス。これが顧客に喜ばれる最大の強みとなっている。 今後は煎餅焼成機のノウハウを生かして「充填装置や省力化機など、食品加工機械の製造販売にも力を入れたい」(同)と意気込んでいる。
【広島アルミニウム工業、オーブンのように使える無水鍋】
樹脂の取っ手がないシンプルな作り。広島アルミニウム工業が生産し、生活春秋(広島市安佐南区)など関係会社を通じ販売する「無水鍋」は、発売から60年以上たつ超ロングセラー。発売時とほとんど変わらないデザインのまま、今も売れ続けている。
人気の秘密は「無水調理」が可能なこと。鍋本体とふたがぴったり合わさって蒸し焼きのようになり、素材の水分だけで煮物などを作ることができる。ふた単体でも煮炊きできるほか、全体を加熱してオーブンのようにも使える万能鍋だ。特に「ご飯を炊くと本当においしい」(小山重孝生産本部祇園製造部次長)。
実はそれも当然。かまどで使う羽釜をヒントに設計したからだ。薪(まき)で炊いたご飯のおいしさを追求し、このデザインにたどり着いた。アルミ部品を中心に広島でも最大手級の自動車部品メーカーとなった広島アルミだが、鍋釜の製造こそ創業時の主力。祖業を大切に育ててきたことになる。
樹脂取っ手付きやフッ素コーティングタイプと品ぞろえを広げてきたものの「一番の売れ筋は元祖のタイプ」(同)。鋳造製の厚手鍋はほとんど壊れず、親子3代にわたり使い続ける根強いファンが全国にいるという。
【七洋製作所、一流職人が愛する菓子用オーブン】
七洋製作所が製造する「南蛮窯」シリーズは、全国の菓子職人に愛用されている菓子用オーブンだ。「南蛮」の名前はカステラ用に開発したことに由来する。カステラをしっとり焼き上げる技術を、洋菓子のスポンジ生地にも生かしてラインアップを拡大。「多くの一流職人に使っていただいている」と、内山素行社長は胸を張る。
オリジナルの南蛮窯の発売から40年近く経つが、基本的な構造は大きく変わらない。武骨とも言えるフォルムも発売時の面影を残す。武骨なのは外見だけではない。扉は非常に重く、女性も多い菓子業界では大変に思える。だがこの扉の重さこそが蓄熱性の証であり、だからこそ、その中で焼かれるスポンジは繊細に仕上がる。
創業者の故・内山善次氏は、元はせんべいを焼く職人だった。元来の機械好きが高じて鉄工所を創業するも2度失敗。“三度目の正直”で開発したのがこのオーブンだった。そのため南蛮窯には菓子に対する職人の思いを込め「菓子職人がつくったオーブン」(内山社長)として品質に信頼を寄せられている。現在は背面ガラス張りで、デザインにこだわった新型も開発したが蓄熱性は維持。創業者が込めた熱意を今も息づかせている。
●大倉菓機▽所在地=大分県別府市船小路町3の37▽社長=大倉一泰氏▽発売時期=1955年
●広島アルミニウム工業▽所在地=広島市西区横川町3の6の3▽社長=田島文治氏▽発売時期=1953年
●七洋製作所▽所在地=福岡県宇美町若草2の13の5▽社長=内山素行氏▽発売時期=1976年
※毎週金曜日に日刊工業新聞で連載している「キラリわが社のロングセラー」の中からセレクト。
【大倉菓機、オーダーメードの煎餅焼成機】
大分銘菓の臼杵煎餅(せんべい)や長崎県雲仙市の湯煎餅などの量産機として、長く愛用される大倉菓機の煎餅焼成機。顧客ニーズに応じたオーダーメードで、顧客と膝を突き合わせて完成させるモノづくりの傑作だ。
発売したのは1955年。焼き板に生地を載せ、上下から均一にプレスして焼き上げる。でんぷんや小麦粉の煎餅、ゴーフレットが作れる。熱源はガスと電熱の2種類。焼き板2枚を横1列に組み合わせた半自動の2丁掛けから、最大14丁掛けの全自動ロータリー式がある。14丁掛けでは厚さ2ミリ―4ミリメートルの煎餅を1時間に2000枚程度焼き上げる。
価格は2丁掛けで180万円から。年間で5、6台と数が多く出る製品ではないが「6次産業化の追い風を受けて、顧客からの相談は増えている」(大倉崇史専務)と、今後も期待できる。
相談に対しては、煎餅に適した食材を知り尽くした同社だからできる食材選び、試作開発などをアドバイス。これが顧客に喜ばれる最大の強みとなっている。 今後は煎餅焼成機のノウハウを生かして「充填装置や省力化機など、食品加工機械の製造販売にも力を入れたい」(同)と意気込んでいる。
【広島アルミニウム工業、オーブンのように使える無水鍋】
樹脂の取っ手がないシンプルな作り。広島アルミニウム工業が生産し、生活春秋(広島市安佐南区)など関係会社を通じ販売する「無水鍋」は、発売から60年以上たつ超ロングセラー。発売時とほとんど変わらないデザインのまま、今も売れ続けている。
人気の秘密は「無水調理」が可能なこと。鍋本体とふたがぴったり合わさって蒸し焼きのようになり、素材の水分だけで煮物などを作ることができる。ふた単体でも煮炊きできるほか、全体を加熱してオーブンのようにも使える万能鍋だ。特に「ご飯を炊くと本当においしい」(小山重孝生産本部祇園製造部次長)。
実はそれも当然。かまどで使う羽釜をヒントに設計したからだ。薪(まき)で炊いたご飯のおいしさを追求し、このデザインにたどり着いた。アルミ部品を中心に広島でも最大手級の自動車部品メーカーとなった広島アルミだが、鍋釜の製造こそ創業時の主力。祖業を大切に育ててきたことになる。
樹脂取っ手付きやフッ素コーティングタイプと品ぞろえを広げてきたものの「一番の売れ筋は元祖のタイプ」(同)。鋳造製の厚手鍋はほとんど壊れず、親子3代にわたり使い続ける根強いファンが全国にいるという。
【七洋製作所、一流職人が愛する菓子用オーブン】
七洋製作所が製造する「南蛮窯」シリーズは、全国の菓子職人に愛用されている菓子用オーブンだ。「南蛮」の名前はカステラ用に開発したことに由来する。カステラをしっとり焼き上げる技術を、洋菓子のスポンジ生地にも生かしてラインアップを拡大。「多くの一流職人に使っていただいている」と、内山素行社長は胸を張る。
オリジナルの南蛮窯の発売から40年近く経つが、基本的な構造は大きく変わらない。武骨とも言えるフォルムも発売時の面影を残す。武骨なのは外見だけではない。扉は非常に重く、女性も多い菓子業界では大変に思える。だがこの扉の重さこそが蓄熱性の証であり、だからこそ、その中で焼かれるスポンジは繊細に仕上がる。
創業者の故・内山善次氏は、元はせんべいを焼く職人だった。元来の機械好きが高じて鉄工所を創業するも2度失敗。“三度目の正直”で開発したのがこのオーブンだった。そのため南蛮窯には菓子に対する職人の思いを込め「菓子職人がつくったオーブン」(内山社長)として品質に信頼を寄せられている。現在は背面ガラス張りで、デザインにこだわった新型も開発したが蓄熱性は維持。創業者が込めた熱意を今も息づかせている。
●大倉菓機▽所在地=大分県別府市船小路町3の37▽社長=大倉一泰氏▽発売時期=1955年
●広島アルミニウム工業▽所在地=広島市西区横川町3の6の3▽社長=田島文治氏▽発売時期=1953年
●七洋製作所▽所在地=福岡県宇美町若草2の13の5▽社長=内山素行氏▽発売時期=1976年
※毎週金曜日に日刊工業新聞で連載している「キラリわが社のロングセラー」の中からセレクト。
日刊工業新聞2014年04月18日/2015年02月06日/同02月13日 列島ネット面