ニッポン造船は成長軌道に乗れるか、中韓との競争厳しいが…脱炭素で好機
国内造船業に好機が訪れている。国際海運のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)が進み、日本が得意とする環境技術への期待が高まる。コロナ禍で2020年秋には最悪の状況に追い込まれた国内造船業だが、状況は一変。足元の受注は堅調で、手持ち工事量にもゆとりが出てきた。鋼材高や人手不足など向かい風はあるが、24年以降、昇り龍のように成長軌道に乗れるか。
23年12月20日、名村造船所の株価が終値で前日比2割以上上げた。大商いになった理由は、同社の名村建介社長が新造船事業について新たな成長局面に入ったとの認識を示したことが一部で報じられ、材料視されたとみられている。事実、新造船市場は大きな転換期を迎える。
23年7月、国際海事機関(IMO)は国際海運からの温室効果ガス(GHG)排出を50年ごろまでに実質ゼロとする新たな目標を採択。それまでのGHG総排出量半減という目標を大幅に修正した。「ゼロエミッション船への代替が前倒しされ、大きく伸びていく。50年に向けて底堅い新造船需要があることは明白だ」。日本造船工業会の金花芳則会長は期待を寄せる。
ゼロエミ船とは水素やアンモニアなどを燃料とした次世代船舶で、海運や造船など日本の海事クラスター全体で技術開発を加速し「世界を一歩リードしている」(金花会長)。
世界の新造船建造量のピークは10年ごろの年間約1億総トン。以降、低空飛行を続け、足元では同6000万総トン前後にとどまるが、IMOのネットゼロ規制やピーク時に大量建造された船舶が更新期を迎えることで「30年代早々には同1億総トンを上回り、その後も1億2000万総トンという高原状態が継続する」と造工会は予測する。
三菱造船(横浜市西区)の北村徹社長は「新燃料船の引き合いが増えている。自動車運搬船はすでにほとんどが液化天然ガス(LNG)燃料だ。(CO2の回収・利用・貯留〈CCUS〉で活用が期待される)液化二酸化炭素(CO2)輸送船の引き合いも増えている」と明かす。
兆候は明るい。日本船舶輸出組合(JSEA)が発表した11月の輸出船契約実績によると、受注量を示す一般鋼船の契約は3カ月連続で前年同月を上回った。苦しい時期に受注した採算の悪い船舶の引き渡しが進み、円安の追い風も吹く。船価も上昇傾向にある。川崎重工業はLPG・アンモニア運搬船の受注が進み「納期ベースで26年後半まで仕事が埋まっている」(エネルギーソリューション&マリンカンパニーバイスプレジデント兼船舶海洋ディビジョン長の今村圭吾常務執行役員)という。
一方、23年度の業績では名村造船所に加えて、川重が船舶海洋事業の業績予想を上方修正。ジャパンマリンユナイテッド(JMU、横浜市西区)は黒字転換を見込む。2年半程度の手持ち工事を抱えるJMUは、建造効率を高めるため、津事業所(津市)のゴライアスクレーン(門型クレーン)増強や有明事業所(熊本県長洲町)の艤装(ぎそう)岸壁拡張などを計画する。
ただ鋼材価格の高止まりなど課題は残る。造工会によると船価の上昇は鋼材価格の急騰に追いついておらず、20年秋ごろから現在までの上昇率は船価が約1・3倍に対し、鋼材は約1・8倍という。人手不足が顕在化する中、ロボット導入など労働集約型産業からの抜本的転換も進める必要がある。
また造工会は「中国や韓国の造船業は政府による各種支援措置を背景に受注を獲得しており、公平であるべき国際競争環境が大きくゆがめられている」と指摘。このため新造船の手持ち工事量の回復度合いは日本が遅れ、韓国が3年弱を抱えているところ、日本は平均で約1・6年分程度にとどまるという。
韓国や中国の造船業との競争は厳しいが、業界全体としてプラスサイドの要素が多いのは事実。JMUの灘信之社長は言う。「カーボンニュートラルで世界が変わるとしても、日本が生き残る道は技術立社と産業立国。明治から変わらない。造船業には今まさにチャンスが訪れている」。