コロナ禍から復活「鉄道業界」…これからどう変わる?、キーワードで読み解く
コロナ禍から復活した鉄道業界はこれからどう変わるのか。成長路線への回復だけでなく、人手不足の状況下で地域を支える交通インフラとして強靱(きょうじん)化することも重要だ。将来の鉄道業界のあり方につながるポイントを、キーワードをもとに読み解く。
【観光客】クレカ乗車拡大・・・安い「1日券」周遊促す
コロナ禍でリモートワークが定着してことで、定期券収入は元通りに回復しないと予想される。これを補うためインバウンド(訪日外国人)旅行者や国内旅行者の取り込みが一層重要になる。
JR東日本は2023年6月、東京駅と羽田空港を乗り換えなしで約18分で結ぶ「羽田空港アクセス線(仮称)」の起工式を行い、本格的な工事に着手した。31年度の開業を目指す。東京モノレール、京浜急行電鉄との空港利用者の争奪戦は激しくなりそうだ。
クレジットカードのタッチ決済機能を使った後払い乗車サービスは、インバウンド旅行者の国内移動にも役立つサービスだ。世界で急速に広まっており、国内では南海電気鉄道や江ノ島電鉄(神奈川県藤沢市)をはじめ、多くの鉄道が導入を進めた。
ただ、関東の鉄道は相互乗り入れが多いところが注意点だ。乗車駅と下車駅の両方で使えなければ不便なため、ある程度足並みをそろえる必要がある。
東急電鉄のクレカ乗車・2次元コード(QRコード)乗車サービス「Qスキップ」はひと味違う。1日乗車券などのデジタルチケットをウェブ上で事前購入し、入出場にクレカやQRコードを使う。通常の乗車よりも価格を安く設定し、沿線の周遊を促す。
【安全対策】防犯カメラ・踏切・・・各社、投資継続
21年に小田急電鉄小田急線や京王電鉄京王線の車内で起きた刺傷事件を受け、約2年間で都市部を走る電車内への防犯カメラの設置が急速に進んだ。JR東の首都圏路線や東急電鉄、東京メトロなどは設置車両が大半。京王電鉄はこのほど設置を完了、小田急電鉄は25年度中に全ての車両に設置を終える計画だ。西武鉄道も全車両への設置を決めた。
多様な安全技術の開発が進んでおり、JR東は地震発生時に素早く新幹線を緊急停止できる技術を24年3月から導入する。地震の初期微動(P波)をもとに高い精度で地震規模を推定し、新幹線への送電停止までの時間を平均で3分の1の1・3秒に短縮する。
JR西日本は遮断機や警報器などがない第4種踏切向けに、歩行者らが横断時のみに開ける常時遮断式の「踏切ゲート―ライト」を開発した。中国地方中心に設置を進めていく。通常の踏切と同様に、一時停止や左右確認を促すことで、安全確保につなげる。
安全対策に終わりはなく、新たなリスクが見つかれば追加されるため、近年の各社の安全投資は増加傾向だ。安全運行を続けるためにも、収益力の強化やコスト削減を同時に進めなければならない。
【自動化・省人化】運転・設備保守・・・主要路線・新幹線も
人手不足をにらみ、運転や設備保守の省人化も広がっている。東急電鉄は、23年から東横線にもワンマン運転を拡大した。利用者数の多い東横線での実現は大きな前進となる。
JR東とJR西は、新幹線の自動運転で技術協力を開始した。23年4月に覚書を結んだ。両社が相互直通運用している北陸新幹線の車両をベースに開発し、高崎―金沢間への自動運転の導入を検討する。
JR東海は新幹線の営業列車で架線を検査する装置を開発した。時速300キロメートルまでの高速走行中に、架線同士の位置関係や電車線金具といった架線の細部にわたって検査できる国内で初めての技術だ。装置で取得したデータは、今後整備するミリ波方式列車無線で伝送し、架線の状態変化の早期発見につなげる。27年を予定するミリ波無線の運用開始後に活用を始める。
線路状態の診断技術も進化しており、こうした取り組みがさらに加速しそうだ。
このほかに、赤字路線の対応を含む地方交通のあり方の議論や、水素ハイブリッド電車をはじめ環境対応車両の実用化などが鉄道業界の重要なテーマとなる。コロナ禍からの本格的な復活を遂げた今、ポストコロナ社会での鉄道のあり方をつくり上げる必要がある。
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