ポンプで宇宙に挑む荏原、社長が見据えるもう一つの効果
燃料循環“心臓”着々
荏原はポンプ大手の知見を生かし、宇宙分野に参入した。荏原のポンプは給水や排水、プラント、半導体製造など多様な業種に使われる。新規事業を模索した際、ポンプの知見をロケットに生かせると判断した。宇宙スタートアップが打ち上げるロケットに、心臓部のポンプを提供する狙いだ。(戸村智幸)
荏原は宇宙に関わりがなかったわけではない。2000年代初頭から、ポンプなど回転機械技術を活用し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のエンジン用ターボポンプの改良を支援してきた。
20年に新規事業のアイデアコンペティションを実施したことが参入のきっかけだ。最終選考の一つに、ロケットを飛ばすというアイデアが残った。浅見正男社長は「面白いので開発しよう」と決断した。
付き合いがあったJAXA出身の内海政春室蘭工業大学教授に相談し、ロケット全体ではなく、燃料を供給する役割のポンプに狙いを定めた。21年には、同大学と宇宙スタートアップのインターステラテクノロジズ(IST、北海道大樹町)と小型人工衛星用ロケットのエンジン用ターボポンプの共同開発を始めた。ISTが開発する同ロケット「ZERO」に搭載するためだ。
ターボポンプは推進剤タンクから燃焼器に燃料と酸化剤を送るための心臓部で、最も開発が難しい要素の一つと言われる。22年4月には、ポンプ部分の性能を確かめる要素試験「水流し試験」を実施した。ポンプの効率や昇圧性能など必要なデータを取得した。
3者はその後も開発を進め、ISTは7日には、ZEROのエンジン燃焼器の単体試験に成功した。家畜ふん尿から製造した液化バイオメタンを燃料に使用し、十分な性能を持つと確認した。24年1月まで試験を実施し、その後は実機モデルを開発・製造する。
荏原は3者でのみ開発しているわけではない。ロケットのエンジン用電動ポンプも開発中で、24年以降の市場投入を予定する。ターボポンプではなく駆動機に電動モーターを採用。電動化によりエンジンの保全性向上や推力制御が容易になる効果を見込む。
浅見社長は「こんなものを開発しているので、さまざまな所にどうでしょうかと話している」と熱心に採用を提案する。電動ポンプの用途は小型衛星打ち上げ用ロケットのほか、高速2地点間輸送、月面離着陸など低重力環境での輸送などを見込む。ISTのロケットで実績を残した上で、これらの分野への採用を目指す。
荏原は宇宙分野の事業化が社員にもたらす効果も見据えている。荏原のポンプを搭載したロケットが発射される日が来た時、浅見社長は「うちのポンプが宇宙に行ったぞとみんなで打ち上げを見れば楽しい」と思いを巡らす。「ロケットが当たり前のように打ち上がる時代に貢献できる会社でありたい」とも考えている。それらが社員にわくわく感を与えられるとみる。