ニュースイッチ

がんに強い毒性…理研が金触媒で水溶液ゲル化、治療に応用へ

理化学研究所の田中克典主任研究員らは20日、金触媒を使った反応を活用して水溶液をゲル化する低分子ゲル化剤の開発に成功したと発表した。網目状の繊維を形成し、水分を多く含むハイドロゲルとなる。金触媒で反応させる前の状態に比べると、ゲル化させるとがん細胞に対して強い毒性を示すことが明らかになった。開発した低分子ゲル化剤をがん治療に応用できると期待される。

東京工業大学との共同研究。成果は20日、化学系の国際科学誌電子版に掲載された。

ゲルを作る低分子は炭素原子が互いに二重結合で結ばれて安定化した構造である芳香環を含むことに注目し、分子を設計。金触媒と反応させるとハイドロゲルとなり、電子顕微鏡で観察すると繊維状になっていることが分かった。ゲル化する反応については、開発したゲル化剤の2000分の1の量の金触媒を加えるだけで反応が進むことを見いだした。

開発したゲル化剤の毒性を評価。がん細胞を使って反応前後のゲル化剤をそれぞれ調べると、ゲルを形作る前の試料はがん細胞が多く生存したが、ゲル形成後の試料ではがん細胞の生存率が低下したことが分かった。

低分子ゲル化剤は、光や熱、酵素反応などの刺激に応答してゲル化する分子設計が多く開発されてきた。だが医療分野で生体内でゲル化反応を利用するには酵素反応に限られるなどの課題があり、酵素や光、熱など以外の刺激を活用した分子の開発が求められていた。これまでに金触媒などの遷移金属触媒の反応を利用したハイドロゲルを形成する分子は開発されたことはなく、同研究が初の事例になると見られる。

日刊工業新聞 2023年12月21日

編集部のおすすめ