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トヨタとの提携はどうなる?スズキ、自ら“世界最適生産”へ動く

「1カ所で12万台作らないとペイしない」(鈴木修会長)
トヨタとの提携はどうなる?スズキ、自ら“世界最適生産”へ動く

インドからの逆輸入車「バレーノ」を発表する鈴木修会長(右)と鈴木俊宏社長

 スズキが世界の工場を活用した車両の“世界最適生産”を加速させている。このほどインドから初の逆輸入となる小型車「バレーノ」を発売した。一方、「スイフト」の次期モデルはハンガリー生産分を日本に集約する計画だ。変動しやすい為替リスクより、各工場の生産性向上を重視し、収益力を高める。

「スイフト」生産、7カ所中3カ所は不採算


 「1カ所で12万台作らないとペイしない」。鈴木修スズキ会長の語る採算ラインは明確だ。世界戦略車として開発した現行スイフトは日本のほかインド、ハンガリー、タイなど7カ所で生産するが、「3カ所は不採算」と明かす。

 新型車を複数の国で立ち上げれば、それだけ生産準備のための投資や労力がかさむ。一定台数以上を生産すれば投資が回収できるが、少量だと「(車の生産を)集めて運んだ方が安い」(鈴木会長)となる。スズキの場合、その分岐点が12万台というわけだ。

 バレーノはインドで先行発売し、5カ月で4万台を販売。この勢いが続けば年販台数は10万台に迫る。一方、日本での販売計画は年間6000台。欧州向けの販売規模は非公表だが、インドが最大市場となるのは確実で「一番売れる所で作るのは当たり前」(同)の判断だった。

次期「スイフト」、ハンガリー分を日本へ集約


 スズキはすでにハンガリー工場からスポーツ多目的車「エスクード(海外名ビターラ)」や「SX4Sクロス」を日本に輸入している。一方、日本からは2月に発売した小型車「イグニス」を相良工場(静岡県牧之原市)で生産し、インドなど世界へ輸出する予定。また年内の全面改良を計画する次期スイフトは、ハンガリーで生産してきた欧州分を相良工場へ集約、日本からの輸出に切り替える方針だ。

 スズキは33年前、世界の主要自動車メーカーとして初めてインドで車の生産を始めた。鈴木会長は同国で「インド自動車産業の父」と呼ばれ、インド子会社のマルチ・スズキは市場シェアの約5割を占める巨象だ。

インドから初の逆輸入車は受け入れられるか


 マルチの年産台数は約140万台(15年実績)と日本の約90万台(同)を大きく上回る。コスト競争力のあるインド生産車が日本で受け入れられれば、「国内小型車販売10万台」(鈴木俊宏社長)の目標達成に大きく前進する。今後の“世界最適生産”をさらに加速させることにもつながる。

 また、日本に入ってきているインド製の高付加価値の工業製品はまだ少ない。インド製が日本で受け入れられるか。バレーノの成否は日本人のインド製品へのイメージにも影響しそうで、責任は重大だ。
(文=浜松・田中弥生)
日刊工業新聞2016年3月16日自動車面
池田勝敏
池田勝敏 Ikeda Toshikatsu 編集局経済部 編集委員
バレーノの実車を見たが、私の自家用車の先代「ソリオ」と比べても質感はあまり遜色を感じなかった。「インドでの生産から33年が経ち、ようやく日本と同じ品質レベルになった」との鈴木修会長の発言もうなずける。インドで先行して地道に事業基盤を築き上げたスズキならではの世界生産戦略の成否に注目している。

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