電動車イスがフィールドロボ普及の起点に…カギはヤマハ発・スズキの本気度?
電動車イスがフィールドロボット普及の起点になるかもしれない。スズキとヤマハ発動機の2社が電動車イスの部品や機構を無人搬送車(AGV)や自律移動ロボット(AMR)に転用する事業化調査(FS)を進めている。既存の生産ラインを使えるためコスト競争力は高い。2社が本気になれば市場開拓が進むと期待される。工場の次は屋外だ。農業やインフラ保守などコスト要求の厳しい領域に安価な足回りが届くことになる。(小寺貴之)
スズキ、農業・土木など足回り向け
「シニアカーを含めると年間1万台を生産している。コスト競争力のある機体を提供したい」―。スズキ次世代モビリティサービス本部の黒沢秀行マネージャーは力を込める。電動車イスの技術で「電動モビリティベースユニット」を開発し、農業や土木、配送の搬送ロボの足回りに提案する。特徴は前輪をステアリングで左右に振れる点だ。その場で回転でき、サスペンションも完備。自動車を牽引できるパワーがある。防さびや防水、防塵に対応し、農地や泥道なども走れる。
配送サービスを企画するロボットメーカーなどに提案する。「足回りの信頼性はスズキが担保する。どんなセンサーや頭脳を積むかはお客さま次第」(黒沢マネージャー)。フィールドロボットの黒子に徹する構えだ。
ヤマハ発、生産ラインへの受け渡し用
ヤマハ発動機はAGVにアームを載せたモバイルマニピュレーターを発表。屋外の車から屋内の生産ラインへの受け渡しを提案する。実はヤマハ発動機は2022年の国際ロボット展で電動車イスのAGV応用を発表していた。仕掛けたのは社内の自動化を担う生産技術本部だ。自社工場の自動化でAGVの見積もりを取ったところ、あまりに高く、社内の電動車イスの技術でAGVを構築。これが複数の工場やグループ会社に広がった経緯がある。
従来のAGVは高く、大きく、レイアウトがしにくいという課題があった。電動車イスは小さいのに出力は大きい。ヤマハ発動機生産技術本部の椎賢博氏は「電動車イスは家やオフィスで使うため静粛性が求められてきた。工場にはもったいないほど滑らかに走り回る」と説明する。生産技術本部とロボティクス事業部で事業化を検討してきた。ここにスズキが参戦する。両社ともFSの段階だが号砲は鳴った。
日本の社会にとっては朗報になる。屋外作業は社会課題が山積している。農業や土木、宅配業界は常に人手不足を抱え、搬送などの力仕事を自動化するニーズは根強いものがある。ただコストや信頼性に課題があった。ここに安価な足回りが安定供給されれば、ロボットメーカーはサービス開発に専念できる。電動車イスは足腰を鍛えた。社会課題を解決してビジネスとして成り立たせる頭脳戦が始まろうとしている。