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インボイス制度開始後初の月次決算業務が終了。経理現場だけではない業務負担の実態

2023年10月1日にインボイス制度がスタートした。制度開始後は、受領する請求書が適格請求書でなければ、原則として消費税の仕入税額控除が認められなくなるため、経理担当者は、自社で受領した請求書が適格請求書の要件を満たしているか否かの確認を行う必要がある。確認や検算、保存の業務など、新たに負担が増えることが予想されてきたが、実際はどうだったのだろうか。制度開始後初の月次決算業務を終えた現場担当者のリアルな声を紹介しながら、その実態に迫る。

制度開始後初の月次決算。経理担当者の業務負担は増大

まずは請求書の受領から支払い、保管といった一連の業務のフローに関わる、経理部門の現場から見ていこう。Sansanの調査(※)によると、経理担当者のうち70.2%が、インボイス制度への対応に課題を感じていることが明らかになった。

多くの経理担当者が課題を感じた業務として挙げたのが、「適格請求書であるかどうかの確認」だ。これはインボイス制度の導入によって追加された工数に当たる。例えば、適格請求書に必要な登録番号の確認作業ひとつとっても、「請求書によって登録番号が記載されている箇所が違うので、確認に時間がかかる」といった声が挙がっている。インボイス制度では、登録番号を記載することが適格請求書の要件の一つとされているものの、記載場所が明示されているわけではない。そのため、A社の請求書では右上にあり、B社の請求書では左下にある、といったように、個別に確認が必要となってしまうのだ。

その他にも、取引年月日や消費税額の検算など、確認事項が複数あるため、受け取った請求書が適格請求書かどうか判断するのが難しいと感じるのも無理はない。

さらに、こうした確認作業の方法としては、約7割の企業は経理担当者の目視で行っていることが明らかになった。1枚の請求書の確認作業であれば数分で済むものの、何百枚、何千枚もの量になるとその工数は膨大だ。実際に、経理担当者1人当たり約12時間/月の業務時間増加が見られた。部門としてとらえれば、この12時間に人数をかけることになり、他の業務に割くべき時間を侵食してしまう。

インボイス制度の導入で増加した工数をいかに減らしていけるかが、経理部門における喫緊の課題と言えるだろう。

※Sansan株式会社「インボイス制度開始後の実態調査」(2023)

経理以外の部門でも負担増! インボイス制度は全社的な課題

インボイス制度による影響は、実は経理部門だけにとどまらない。請求書は経理部門だけが扱う書類ではなく、営業やマーケティング、開発など調達・購買を行うすべての部門の社員や、その上長たちにも関わるからだ。先に紹介した調査では、非経理部門でも、69.8%が業務工数の増加を感じたと回答している。

非経理部門が実際に負担に感じているエピソードを集めたが、端的に言うと「自分自身も、取引先もよく理解できていないために、コミュニケーションの工数がかかる」という声が多かった。

例えば、営業活動などで出張する際は、経費を立て替えておいて、後日精算する場面が多い。飲食や購入を、適格請求書発行事業者ではない店舗で行ってしまうと経理から、「要件を満たしていない」との指摘を受けてしまう。制度開始後は、今まで通りの処理ができず、経理部門とのコミュニケーションが増えるという事象が起こっている。

さらに、自社の社員だけでなく、取引企業のインボイス制度や適格請求書の要件に対する理解があいまいな場合もある。実際に、「適格請求書の必要要件を理解していない取引先に対しての連絡に時間を要している」といった声も多く聞かれた。受け取った請求書に登録番号の記載がなかったり、消費税の計算が間違っていたりしたために差し戻しが増えるなど、新たな工数が発生している。これらの現象は、あらゆる部門に共通しているようだ。

以上のように、インボイス制度は経理部門だけではなく、全社的な業務負担増につながっている。そうした事態は、営業やマーケティングなど、会社の売上を生み出す企業活動の時間を圧迫してしまうことにもつながる。事業成長にネガティブな影響を与えかねないため、部門を越えて業務負担を軽くするための策を講じる必要があるだろう。

法対応はDX実現の好機。業務を変革し事業成長につなげる

インボイス制度の開始から2ヵ月が経ち、経理担当者だけでなく、それ以外の部門でも負担が大きくなっているという課題が見えてきた。そして業務負担の内容としては、単純に業務時間が増えるだけではなく、確認作業や法律の理解などを求められることや、経理部門・取引先との間でこれまで以上にやり取りが必要になっていることなどに起因した心理的な負担も大きいことが見てとれる。

こうした工数の増加が一過性のものであればまだよいが、「適格請求書の判断が難しく、ほかの業務に支障が出ている」(経理部門)や、「ルールがまだ明確化されておらず、様子見のところが困っている」(非経理部門)といった声に代表されるように、すぐに減らせる工数というわけでもない。「何が正解か分からない中で確認し続けるのはストレス」という声も多く、何らかの手段を講じ、業務効率化を図る必要があるだろう。

こうした事態を打開するための手段のひとつが、法制度に対応しながら、アナログな請求書業務を効率化するDXサービスの導入だ。

多くの企業がインボイス制度に対応したサービスを提供しているが、例えば、Sansanが提供するBill Oneは、法制度対応はもちろん、経理部門のみならず業務全体を効率化できる。人が介在する業務を減らして効率化するとともに、適格請求書か否かを自動で判定する「適格請求書判定機能」により、インボイス制度への対応として多くの企業で、目視で実施されている「確認」の業務をシステムに任せることができる。「正しく判断できているのか迷いがある」(経理部門)といった心理的負担も減らせる。

先に紹介した、月に12時間/人の経理部門の工数増加も圧縮でき、非経理部門とのコミュニケーションもスムーズになるだろう。

インボイス制度への対応をきっかけに業務の見直しを行い、外部サービスの活用なども視野に業務変革し、企業の事業成長につながる一歩を踏み出してほしい。

柘植 朋美:Sansan株式会社 Bill One 事業部 チーフプロダクトマーケティングマネジャー
新卒で大手人材会社に入社し、海外事業企画に従事。その後、大手ERP会計ベンダーにてコンサルタント業を経て、2016年にSansanへ入社。エンタープライズ領域でのカスタマーサクセスマネジャーを3年経験後、新規事業の開発を担当。現在はBill Oneのプロダクトマーケティングマネジャーとして、電子帳簿保存法やインボイス制度の啓発活動にも力を入れている。
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