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エンジン不正の“呪縛”抜け切れず…日野自・三菱ふそうの統合、「延期の可能性高い」の見方も

エンジン不正の“呪縛”抜け切れず…日野自・三菱ふそうの統合、「延期の可能性高い」の見方も

商用車業界にも脱炭素の潮流が押し寄せている(ジャパンモビリティショーの日野自ブース〈手前〉と三菱ふそうブース〈奥〉)

一部プロジェクト始動も

日野自動車三菱ふそうトラック・バスが2024年末をめどに経営統合する計画の発表から半年がたった。依然、日野自は22年公表のエンジン認証不正の“呪縛”から抜け切れない。資産売却などで特別利益を計上したものの、補償や和解金支払いなどで24年3月期連結業績予想は4期連続で当期赤字の見通し。今後新たな問題が発生する可能性も拭い切れず、「統合は延期になる可能性が高い」(杉浦誠司東海東京調査センターシニアアナリスト)との見方も浮上している。(大原佑美子)

日野自は23年7―9月期に米国の集団訴訟の和解金347億円を特別損失として計上。豪州やカナダでも同様の訴訟を抱えている。

不正発覚のきっかけとなった北米市場向け車両用エンジンについては米司法省の調査が継続しており「(統合新会社が予定する)上場のタイミングなどで新たな問題が発生しないとも言い切れない」(杉浦シニアアナリスト)。統合比率決定などにも影響する可能性があり、今後1年間で予定通りの統合実施を見通しづらいのが実情だ。一方、別の業界アナリストは「直近のリスクは織り込み済みで、訴訟などが今後の意思決定に与える影響は少ない」と説明する。

「日々、経営統合に向けての準備は進めている」。10月の「ジャパンモビリティショー2023」会場で、日野自の小木曽聡社長は報道陣に進捗(しんちょく)を説明した。5月30日の統合発表以降、新統合会社の社名を社内公募するなど一部ではプロジェクトが動いている。ただ、報道でしか現状を知り得ない従業員からは「なるようにしかならない」(関係者)と当初に比べトーンダウンした声も聞かれるという。

日野自と三菱ふそうの経営統合の背景にあるのは、商用車業界に押し寄せる脱炭素の潮流だ。燃料電池車(FCV)、電気自動車(EV)、カーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)燃料など、多様な選択肢への対応は個社では限界がある。

加えてコネクテッド技術や自動運転技術、サブスクリプション(定額制)といったサービス開発、半導体調達をはじめとする経済安全保障、架装・特装対応など取り組む課題は多い。EYストラテジー・アンド・コンサルティングの早瀬慶パートナーは一般論とした上で「1社だけが得をする提携ではなく“競争に向けた協調”が求められる」と指摘する。

親会社のトヨタ自動車、独ダイムラー・トラックを含む4社の大きな枠組みでリソースを最適に活用する「あるべき姿」について、現状、ステークホルダー(利害関係者)からは見えづらい状況だ。杉浦シニアアナリストは「新統合会社の社長にトヨタ、ダイムラーのどちらから就くのかが決まらないと財務的なインパクトも見通せない」と話す。

日刊工業新聞 2023年11月30日

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