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頭角現す中国・EVシフト…岐路に立つ「ロボット大国・日本」は権威を保てるか

頭角現す中国・EVシフト…岐路に立つ「ロボット大国・日本」は権威を保てるか

ファナックはEVのバッテリー搬送などを想定した可搬質量1000kgの重可搬ロボットを投入している

産業用ロボット業界が新局面を迎えた。ロボットの主要ユーザーである自動車業界の電気自動車(EV)シフトに加え、海外勢との競争が激化するなど事業環境が大きく変化する。国際ロボット連盟(IFR)は2024年にも産業用ロボットの年間設置台数(世界)が60万台(22年実績は55万3000台)に達すると予想。中長期的な成長市場において環境変化に適応し、「ロボット大国・日本」としての権威を保てるか―。岐路に立たされている。(増重直樹)

EVシフト進展、門戸広がり導入に拍車

「EVシフトを危機的側面ではなく大きな機会として捉えるべきだ。特定用途でロボットの利用が減るかもしれないが、いかにそれをカバーできるかがロボット業界の腕の見せ所」。日本ロボット工業会の山口賢治会長(ファナック社長)はEV時代の到来に恐れを抱くのではなく、最適な生産システムの提案など、前向きな姿勢で臨む必要性を説く。

実際、ロボット業界では機会の側面から好意的にEV時代の到来を受け取る向きが多い。車の電子化に伴うサプライチェーン(供給網)の構造変化は理由の一つ。車業界と並びロボットを多く使用する電子・電機業界が、1次、2次部品メーカーとして車業界に参入できる門戸が広がり、ロボットの導入に拍車がかかるとみる。

エレクトロニクス関連でシェアが高いロボットメーカーはこの商機をうかがう。セイコーエプソンの内藤恵二郎執行役員は「当社ロボットの良さを経験済みの電子機器製造受託サービス(EMS)事業者がEV市場に広く参入できるようになったことは追い風」と期待を込める。今後、電子・電機業界で人気の小型・中型ロボット分野での製品開発や競争激化が予想される。

車体部品を一体成形する「ギガキャスト」をはじめ、EVの最適な生産方法は模索のさなかにあり、確立された工法は少ない。ただサプライヤーの裾野が広がることに加え、車載バッテリーの搬送や最終組み立て工程での協働ロボットの活用可能性など、足し引きで考えるとロボットの需要は増えるというのがおおかたの見解だ。

一方、大手ロボットメーカー幹部は「車の生産方法が変われば、求められるロボットも違う。それに対応できる技術開発力やリソースを持つ企業でなければ生き残れない」と、EVシフトでメーカーの淘汰(とうた)が進む可能性も示唆。EVシフトによる業界への影響は長期の時間軸での分析が必要となる。

海外勢と競争激化

成長市場の宿命とも言える海外勢との競争激化も昨今のロボット業界を取り巻くトレンドの一つだ。22年時点で日本は産業用ロボットの生産量の約半数を担い、ロボット市場として見ると中国に次ぐ世界2位につける。ただ販売数量ベースで世界シェア約9割を誇った1990年代に比べると、相対的にシェアが低下している。

中国の協働ロボットメーカーのAUBOは4月に日本拠点を設立、市場開拓を本格化した

国内メーカーが意識するのが、頭角を現す新興中国勢だ。圧倒的なコスト競争力を武器に、国威発揚の姿勢で市場を開拓する。「価格の安さに加えて、これまで弱点と言われた品質面のレベルも上がっている。がっぷり四つでまともにぶつかっても勝ちようがない」(ロボットメーカー首脳)との声もある。

日本で事業を展開する外資系ロボットメーカー首脳は「最近の20―30代は日本製か海外製かにこだわりがなく、本当に良いと思ったロボットを使おうとする。こうした世代が設備投資の意思決定権を持つ年齢になればシェア向上も夢じゃない」と不敵にほほえむ。

国としても警戒感をのぞかせる。経済産業省幹部は「日本の産業用ロボットはまだまだ先端を走っているが、中国などが追い上げてきている」と指摘。その上で「日本のロボットでしか提供できない付加価値を生み出す必要がある」と述べる。

具体的には、ロボットと生成人工知能(AI)を組み合わせた高付加価値化の提案や、ロボット未導入の企業の導入促進による市場創出などを重要視。日本ロボット工業会の山口会長も「ロボット産業分野で世界をリードするにあたり、たゆみない技術革新とともに、新たなロボット利活用分野の開拓を行う必要がある」と訴える。

産業用ロボットのボリュームゾーンを追い求めれば勝者なき価格競争に巻き込まれる危険は高い。ただニッチな部分を攻め過ぎても、市場におけるプレゼンスは低下する。日本勢にはある程度のボリュームを意識しつつ、技術的に難しい高付加価値分野に経営資源を投下するといった難しい経営のかじ取りが求められる。

普及のカギは…肩肘張らぬロボ開発

深刻化する人手不足などを背景に、今後の自動化需要の拡大を疑う余地はない。ただロボット先進国である日本でもロボット密度(従業員1万人に対して稼働する産業用ロボットの数)は約4%に過ぎない。ロボットの導入経験がない企業も多く、「ロボットを活用した自動化」は言う程簡単ではない。ロボットのさらなる普及には何が必要なのか。

そのヒントが「肩肘張らず簡単に使えるロボット」(ファナック稲葉清典専務執行役員)の言葉にある。自動化に対する障壁を下げるため、伝統的な産業用ロボットよりもエンジニアリングが容易な協働ロボットの開発が積極化しているほか、ティーチングレスといった初心者でも簡単なロボットプログラミング手法も増えている。

未導入領域の開拓に向けては安川電機が新型自律ロボット「MOTOMAN NEXT(モートマンネクスト)」を近く投入予定。人の判断が頻繁に求められる現場など、従来は自動化が難しかった領域への導入が期待できる。同社の岡久学上席執行役員は「パートナーの知見を盛り込めるオープンなアーキテクチャー(設計概念)が特徴。エコシステムを形成するプラットフォーム(基盤)になる」と自信を示す。

国際ロボット展では、国内外のメーカーがさまざまな自動化手段を示す(前回の同展での川崎重工業の搬送ロボット)

現時点で自動化できている領域は氷山の一角と言われる。ロボット未踏の地は多く、その地へ乗り出せれば、巨大な市場が広がるだけでなく、社会課題の解決にも寄与できる。各社はロボット単体の機能にとどまることなく、AIといった先進技術を組み合わせ、ブレークスルーを果たそうと挑戦を続ける。


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日刊工業新聞 2023年11月29日

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