幸せの「和洋折衷スイーツ」にみる、ビジネスの勝ち筋
突然ですが、生クリームどら焼きと抹茶モンブランなら、あなたはどちらを選びますか?一段と深まる秋。今日は仕事の息抜きに、スイーツを堪能してみてはいかがでしょう。糖質から生成されるブドウ糖は、脳の唯一の栄養源といわれています。斬新なアイデアがポンと浮かんでくるかも知れません。
スイーツ業界では昨今、進化形の和洋スイーツが人気だ。緑茶ティラミスからお餅マカロン、豆腐チョコレートにフルーツらくがんまで。新作が次々に登場するコンビニスイーツでも、和パフェやプリン大福はもはや定番。洋菓子派でも和スイーツにそそられる。普通のあんどら焼きや栗のモンブランが、今では古くさい感じさえしてくるから不思議だ。異種の組み合わせが新しいムーブメントを呼び起こし、定着した例だろう。
和と洋を織り交ぜた和洋折衷はもちろん、今に始まったものではない。和洋折衷建築は明治維新後に広まったし、料理だけでなく、着物を洋服にアレンジするといったファッションや、インテリアの分野などでは昔からおなじみの手法だ。ただ、このように異分野を取り込めるその余白と可能性は、まだ多くの領域に残されているのではないか。
『アイデアのつくり方』(ジェームス・W・ヤング著)には、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」とある。今あるものを組み合わせることが、創造の出発点なのだ。例えば、日本の発明であるカップラーメンは「インスタントラーメン」と「どんぶり」、カラオケは、BGMの再生機だった「小型ジュークボックス」と「マイク」を組み合わせたものといえる。
現代なら、「時計」と「スマートフォン」を組み合わせたスマートウォッチ、「メガネ」と「スマホ」でスマートグラスといった具合だ。もともと米アップルが開発したiPhoneも、「音楽プレーヤー」と「携帯電話」を組み合わせたものだった。自動車なら、「ガソリンエンジン」と「電気モーター」を組み合わせたものがハイブリッド車だ。テクノロジーとの融合では、フードテックやエドテック、フィンテックなどの新領域が注目されている。
既存のモノやサービス同士の掛け合わせが、新たな需要を掘り起こす。それこそがイノベーションにほかならない。オーストリアの経済学者シュンペーターは、非連続的な変化によって新規のものを生み出すには、①新しい財貨(製品)、②新しい生産方法、③新しい販路の開拓、④原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得、⑤新しい組織の実現――の5つの型があるとし、これを「新結合(イノベーション)」の遂行と表現した。
「新結合の遂行は国民経済における生産手段ストックの転用を意味」し、新しいアイデアに基づくものづくりだけでなく、「当該国の当該産業部門が従来参加していなかった市場の開拓」が欠かせないと説いている(『経済発展の理論(上)』シュンペーター著)。
さらには、市場を作り出すこうしたイノベーションが、人々の幸福度の向上に寄与していくことが重要だ。日本においても最近では、科学技術・イノベーション政策に「幸福度」の指標が加えられている。科学技術の進歩を、ウェルビーイング(一人一人の多様な幸せ)の増大につなげていくことが何よりも求められる。
ちなみに、人間が甘いものを食べて“幸せ”を感じるのは、気持ちをリラックスさせる脳の神経伝達物質「セロトニン」の分泌にブドウ糖が大きな働きをしているから。この際、和菓子がベースでも洋菓子がベースでもいい。口いっぱいに広がる和と洋の新結合を楽しみ、そこにイノベーションを感じることができたなら、ウェルビーイングを増やす脳内ミッションは大成功といえるだろう。