「ダイソー」で販売も…障がい者アート採用拡大、障がい者自立推進機構の地道な提案奏功
障がい者が描いた絵画やデザインを発行物などに採用する企業が増えている。一般社団法人の障がい者自立推進機構(東京都港区、松永昭弘代表理事)は、障がい者アーティストの作品を企業に紹介しており、2022年度の採用件数は20年度比1・7倍の334社に増えた。企業に国連の持続可能な開発目標(SDGs)が浸透した背景があるが、同機構の職員による地道な“営業”活動も奏功している。(編集委員・松木喬)
障がい者自立推進機構は「パラリンアート」の名称で障がい者の創作活動を支援している。500人以上の障がい者アーティストの作品をウェブサイト上に掲載しており、3000点以上から企業側が選べる。優しい色の作品があれば、濃淡がはっきりしたデザインもあり、どれも味わい深い。繊細さや構図の大胆さで思わず目を奪われる作品もあって表現力が感じられる。
採用した企業は使用料を同機構に支払う。企業は商品カタログやカレンダー、Tシャツなどの販促物のほか、大創産業(広島県東広島市)は18年から「ダイソー」で販売する商品に採用している。また、額に入れて社内に飾ったり、商業施設の壁面に採用したりする企業も多い。
同機構は利益の半額を報酬として障がい者アーティストに届ける。22年度は2000万円が報酬となった。企業は使用によって障がい者の社会参画を支援できる。満足度が高く、8割以上の企業が継続して利用しているという。
ただし、ウェブに作品を掲載するだけで企業から選ばれるとは限らない。同機構の職員は、企業への地道な提案活動を展開している。上場企業には広報部やIR(投資家向け広報)部、経営企画部に宛てて、手書きの手紙を送る。統合報告書や株主通信への採用を検討してもらうためだ。株主もESG(環境・社会・企業統治)に関心を持っており、発行物は自社の姿勢を社会に伝えるツールになる。同機構の村山朝和専務理事は「企業のメリットを考えて訴えるのは営業と同じ」と強調する。
また、企業の要望を聞いて年間プランも用意した。採用できる作品数が決まっているので企業は年間予算を組みやすい。また、企業がアーティストを指名し、描いてほしい作品をリクエストできる仕組みもつくった。
さらに協賛コンテストも開催する。企業は自社のキャンペーンに使うデザインの選考に活用でき、「ロゴを入れる」「商品を入れる」などの応募条件を設定できる。アーティストもコンテストがあると意欲を持って創作に打ち込める。同機構のウェブ上には企業名を冠したコンテストが数多く掲載されている。
地道な提案と企業ニーズに合わせた企画によって、22年度は登録の217人が報酬を得た。未採用のアーティストにも報酬が発生するように、カレンダーや年賀状の企画時期に合わせた提案もする。村山専務理事は「事業として成立させるために、あの手、この手で企業に提案している」と語る。そこには松永代表理事の思いがある。
社会参加・所得向上の機会を
松永氏は同機構設立前、運営する訪問リハビリ会社の訪問先で、障がいのある子どもを介護する家族から「私が死んだらこの子はどうなるだろう」と悩みを聞いた。その時、社会との接点や所得向上が障がい者に必要と痛感した。
厚生労働省は障がい者の総数を人口の9・2%の1160万人と推定する。企業での雇用は61万人にとどまり、多くの障がい者が社会との接点を持てずに困窮しているとみられる。
松永理事長は社会と関わるきっかけにしようとパラリンアートを始めたが、企業の善意に頼るだけでは長続きしない。企業に価値を感じてもらい、その価値に見合った対価を支払ってもらうことで継続する仕組みにしようと事業としての成立にこだわる。現状、報酬だけでアーティストの自立は難しいが、「作品が採用された成功体験が自信になり、社会参加のきっかけになってほしい」(村山代表理事)と語る。
3日は「文化の日」。採用企業が増えるほど、障がい者アーティストの作品を鑑賞する機会も多くなる。