成長早く花粉半減…住宅メーカー・ゼネコンなど熱視線「エリートツリー」を知っていますか
成長が速く剛性が高い一方で花粉量は少ない樹木―。この「エリートツリー」に企業が熱い視線を投げかけている。二酸化炭素(CO2)吸収機能への期待に加え、森林再生、花粉症対策などの切り札とされるからだ。これら国家的課題の解決にエリートツリーを通じて寄与しようと製紙会社や住宅メーカーが事業展開するほか、ゼネコンなども関連団体に参画するなど興味を示す。(編集委員・山中久仁昭、田中薫)
育成・利用―政府、民間支援厚く
エリートツリーは成長性とCO2吸収量が一般樹木の1・5倍、花粉の量が半分以下という優れものだ。成長が速いため、雑草を除去する「下刈り」の回数を減らせるほか、木材利用に適した状態となる「伐期」は約50年から30年程度へと短縮が見込める。労働力の軽減をはじめ、コスト低減や投資回収短縮が期待できる。
2023年3月時点で国が指定する特定母樹約500種類のうち、エリートツリーは約350種類と7割を占める。スギ、ヒノキ、カラマツ、トドマツなどで森林研究・整備機構などが長年かけて開発した。林野庁はエリートツリーなど特定母樹を増殖する事業者の選定や採種園(種の供給)・採穂園(挿し穂の供給)の整備を推進している。
スギは全国7区域、ヒノキは3区域の種苗配布区域があり降雪の有無など気象条件などで区分している。「特定増殖事業者」には地域の生産事業者や組合のほか、日本製紙や住友林業など大手企業も認定されている。
苗木生産量に占めるエリートツリーの割合は現状5%程度だ。林野庁は、木を切った跡に再び植林する「再造林」の拡大に向け、30年には1億本の苗木が必要とし、その3割をエリートツリーが担う目標を持っている。
エリートツリーの増産は政府の「骨太の方針」で花粉症対策にも位置付けられた。「花粉の少ない苗木の生産拡大で、10年後にスギの場合、生産割合を全体の9割以上に引き上げる」としている。
林野庁はエリートツリーが林業の収益性向上につながるとし、生産・利用拡大を支援する。伐採後の再造林には大量の苗木が必要となるため、民間企業の参画が不可欠と認識する。
24年度施策では採種園などの造成・改良支援の拡充、管理技術者の育成・確保支援を計画している。種苗の配布地域は細分化されているが、運用を見直したり都道府県単位の需給見通しを公表したりと改善を進めている。
需給見通しをつかめば、苗木の過不足が分かり隣県などから融通が進みそうだ。同庁の石井洋造林間伐対策室長は「生育には時間を要し需給調整は容易でないが、大手事業者の要望を受け情報提供に踏み切った」と話す。
一連のエリートツリー普及策は数年前から展開してきた。それまでに、成長度などに優れエリートツリーなどの元となる「精英樹」の開発で一定の成果が出たほか、植林から50年たち利用期を迎えた人工林が全体の半数以上を占めようになったことなどが背景にある。
日本の国土の約7割は森林。長年減少が続いた苗木生産量は近年、改善傾向にある。これを機に「科学的根拠と柔軟な施策で林業経営を側面支援をしていきたい」(石井室長)とする。