財政は寄付金運用益にかじ…東大が示した「新しい大学モデル」への重点方策
東京大学は創造的・自律的に世界の公共性に奉仕する「新しい大学モデル」に向けた重点方策を公表した。国際的存在感向上に向け、脱炭素や医療・教育など社会システム・資本をテーマとする教育部局「カレッジ・オブ・デザイン」を創設する。財政は寄付などの基金(エンダウメント)の運用益利用に大きくかじを切る。国際卓越研究大学の初回認定候補にはならなかったが、変革の計画は予定通り進めるとした。(編集委員・山本佳世子)
カレッジ・オブ・デザインは研究の大学院ではなく、教育の学部段階からの国際化を先導する特別な部局となる。世界市民としての価値創造と社会システム設計(デザイン)をテーマに生物多様性、医療、ウェルビーイングなどの教育・研究を英語で行う。従来の縦割りの専門性や伝統とは異なる、世界水準の教育・研究を具現化するため、学部と大学院修士の計5年制。外国人を中心に約100人を想定する。
併せて世界から才能を呼び込む新たな入試、経済的・人道的に進学できない国の若者を迎えるための準備スクール、博士課程の「スクール・オブ・デザイン」などを設計する。カレッジ教員の既存学部の兼任や、通常学生の参画とカレッジ学生との交流で、この“出島”効果を全学に拡大。25年後に学部生の外国人比率を3割超にするとしている。
藤井輝夫総長は「学部生全員の3年での修了は今はできないが、世界的に競争力ある仕組みで、政府に規制緩和など求めたい」と説明。2027年秋入学での実施を目指す。
一方、このような活動を支える財務基盤は、運営費交付金などに積み増す分を補助金型からエンダウメント型に転換する。東大は10月、マネックスグループ会長の松本大氏の個人寄付10億円で、同大初のエンダウメント型研究組織「応用資本市場研究センター」を設置した。
似た仕組みの成功例では、同大カブリ数物連携宇宙研究機構もある。20年に同大資金とのマッチングで、基金を1750万ドルに引き上げ活動資金を生み出している。さらに基金運用益で継続的に支える、エンダウメント型の研究者雇用や奨学金も計画している。
これら使途指定型の寄付に対し、使途一任型の寄付などによる全学基金は、約25年後に1兆円超にもっていく計画だ。これに向けて、チーフ・インベストメント・オフィサー(CIO)など専門人材が相次いで就任した。
藤井総長は記者懇談会で、これらは21年秋策定の中長期の基本方針「UTokyo Compass」からの流れだと振り返った。「国際卓越大の認定の後押しがあればスケールアップになるが、新しい大学モデルの実現はこのまま進める」と強調。再申請など「今後については決まっていない」と述べた。