ホンダの燃料電池車は“未来"に追いつけるか
トヨタ「ミライ」より1年4カ月遅れて投入。開発段階を過ぎ量産技術がカギに
ホンダは10日、燃料電池車(FCV)「クラリティ フューエルセル」を発売したと発表した。水素充填1回当たりの航続距離は、約750キロメートル(JC08モード)で、5人乗りを実現した。税込み価格は766万円で、国の補助金を使うと558万円で購入できる。リースで販売し、約1年半後に個人販売を始める。
八郷隆弘社長は「これからはどうやって作るかに注力する」と話す。FCV事業が開発段階を過ぎて、今後は量産技術をいかに確立するかがポイントになるとの考えだ。
特にFCVの心臓部である燃料電池スタックは自動車メーカーになじみの薄い化学が支配する技術。「生産工程の不純物混入の管理が難しい」(三部敏宏執行役員)ため生産のボトルネックとなる。トヨタのFCV「ミライ」の生産が追いつかないのも同様の事情だ。
「クラリティ」はひとまず栃木県の開発拠点で1日1台程度の少量生産で始める。生産のノウハウを蓄積して量産技術を熟成し、1年半後の一般販売を始めるのに合わせて、量産工場に移管して生産を拡大する計画だ。
クラリティとは別に20年の商品化に向け米ゼネラルモーターズ(GM)と次世代燃料電池スタックの共同開発を進めている。「GMともどう生産し量をどう確保するかの段階に入っている」(八郷社長)。FCV普及に向け水素インフラ整備はさることながら量産技術の確立が大きな壁となる。
(文=池田勝敏)
<全文は、日刊工業新聞電子版に会員登録して頂くとお読みになれます>
「開発者は語る/FCXクラリティ-本田技術研究所・藤本幸人氏」
このデザインを見て「FCV(燃料電池車)もありだね」って、多くの人から言われる。やはりクルマは見た目が大事。基本形のセダンでどうしても開発したかった。SUV(スポーツ多目的車)とかミニバンだけだと、技術的にもFCVはそれしか作れないということになってしまう。例えばパッケージ。広い場所に燃料電池スタックを積んでよければ、設計者は楽してしまう。
福井(威夫社長)さんをはじめ幹部はみんなクルマに乗ることが大好き。クラリティは乗ってこそ面白い。福井さんが『10年以内に1000万円にすれば十分売れる』って、会うたびに言うから、いつのまにか目標になっちゃった(笑)。
コスト? 燃料電池システムがこれだけ小さくなったから相当下がってますよ。使用金属も減っている。もちろん代替触媒探しもしているけれど、レアメタル(希少金属)の方がリサイクルしやすい。今リースしているFCVの貴金属はほぼ100%回収している。
今後の技術やコストの最大の課題は、やはり燃料電池スタック。実験車なら十分作れるが、量販車になるとセルの歩留まりが悪くコストが上がる。水素タンクも課題の一つ。もし軽自動車をFCVにするならタンクを小さくしないといけない。今、水素注入圧力は350気圧だが、700気圧にしても貯蔵量は1・5倍にもならない。
それでもクラリティのエネルギー回生効率は約6割。加速分の6割が次のエネルギーに使えるのはすごい。バッテリーは補助電源として加・減速に使って、短時間に多くの電気をためる出力型にした。エネルギー型の電池は詰め込み過ぎると自己破壊し、モバイル製品の不具合みたいになる。
無公害車の本命はFCV。今のガソリンエンジンをすべて置き換えることが目標で、電気自動車はまだコミューターに限られるし、燃焼で8割の水素を捨ててしまう水素自動車もどうか…。
【FCXクラリティ】
全長×全幅×全高=4835×1845×1470mm
車両重量=1625キロg
乗車定員=4人
燃料電池スタック出力=100kw
水素タンク容量=171リットル
エネルギー貯蔵=リチウムイオン電池
航続距離=434km
米環境保護庁燃費=1リットル当たり28.9km
リース価格=前金なしで毎月600ドル(08年夏から米で発売)>
【記者の目・FCV開発で競合他社を刺激】
独創こそホンダのアイデンティティー。今回、FCV開発で競合他社を大きく刺激したことは間違いない。ただ最近のホンダは独創技術が量販車事業にうまく結びつかないケースも。FCV開発に先鞭(せんべん)をつけた独ダイムラー、多大の資源を投入する米ゼネラル・モーターズ、水面下で着々と準備をしているトヨタ自動車…。気が早いが、クラリティの次のステップが気になる。
(文=明豊)
※肩書き、内容は当時のもの
八郷隆弘社長は「これからはどうやって作るかに注力する」と話す。FCV事業が開発段階を過ぎて、今後は量産技術をいかに確立するかがポイントになるとの考えだ。
特にFCVの心臓部である燃料電池スタックは自動車メーカーになじみの薄い化学が支配する技術。「生産工程の不純物混入の管理が難しい」(三部敏宏執行役員)ため生産のボトルネックとなる。トヨタのFCV「ミライ」の生産が追いつかないのも同様の事情だ。
「クラリティ」はひとまず栃木県の開発拠点で1日1台程度の少量生産で始める。生産のノウハウを蓄積して量産技術を熟成し、1年半後の一般販売を始めるのに合わせて、量産工場に移管して生産を拡大する計画だ。
クラリティとは別に20年の商品化に向け米ゼネラルモーターズ(GM)と次世代燃料電池スタックの共同開発を進めている。「GMともどう生産し量をどう確保するかの段階に入っている」(八郷社長)。FCV普及に向け水素インフラ整備はさることながら量産技術の確立が大きな壁となる。
(文=池田勝敏)
<全文は、日刊工業新聞電子版に会員登録して頂くとお読みになれます>
「10年以内に1000万円にすれば十分売れる」
日刊工業新聞2007年12月12日付
「開発者は語る/FCXクラリティ-本田技術研究所・藤本幸人氏」
このデザインを見て「FCV(燃料電池車)もありだね」って、多くの人から言われる。やはりクルマは見た目が大事。基本形のセダンでどうしても開発したかった。SUV(スポーツ多目的車)とかミニバンだけだと、技術的にもFCVはそれしか作れないということになってしまう。例えばパッケージ。広い場所に燃料電池スタックを積んでよければ、設計者は楽してしまう。
福井(威夫社長)さんをはじめ幹部はみんなクルマに乗ることが大好き。クラリティは乗ってこそ面白い。福井さんが『10年以内に1000万円にすれば十分売れる』って、会うたびに言うから、いつのまにか目標になっちゃった(笑)。
コスト? 燃料電池システムがこれだけ小さくなったから相当下がってますよ。使用金属も減っている。もちろん代替触媒探しもしているけれど、レアメタル(希少金属)の方がリサイクルしやすい。今リースしているFCVの貴金属はほぼ100%回収している。
今後の技術やコストの最大の課題は、やはり燃料電池スタック。実験車なら十分作れるが、量販車になるとセルの歩留まりが悪くコストが上がる。水素タンクも課題の一つ。もし軽自動車をFCVにするならタンクを小さくしないといけない。今、水素注入圧力は350気圧だが、700気圧にしても貯蔵量は1・5倍にもならない。
それでもクラリティのエネルギー回生効率は約6割。加速分の6割が次のエネルギーに使えるのはすごい。バッテリーは補助電源として加・減速に使って、短時間に多くの電気をためる出力型にした。エネルギー型の電池は詰め込み過ぎると自己破壊し、モバイル製品の不具合みたいになる。
無公害車の本命はFCV。今のガソリンエンジンをすべて置き換えることが目標で、電気自動車はまだコミューターに限られるし、燃焼で8割の水素を捨ててしまう水素自動車もどうか…。
全長×全幅×全高=4835×1845×1470mm
車両重量=1625キロg
乗車定員=4人
燃料電池スタック出力=100kw
水素タンク容量=171リットル
エネルギー貯蔵=リチウムイオン電池
航続距離=434km
米環境保護庁燃費=1リットル当たり28.9km
リース価格=前金なしで毎月600ドル(08年夏から米で発売)>
【記者の目・FCV開発で競合他社を刺激】
独創こそホンダのアイデンティティー。今回、FCV開発で競合他社を大きく刺激したことは間違いない。ただ最近のホンダは独創技術が量販車事業にうまく結びつかないケースも。FCV開発に先鞭(せんべん)をつけた独ダイムラー、多大の資源を投入する米ゼネラル・モーターズ、水面下で着々と準備をしているトヨタ自動車…。気が早いが、クラリティの次のステップが気になる。
(文=明豊)
※肩書き、内容は当時のもの
日刊工業新聞2016年3月11日面