「唯一無二の透明タグ」…単純原理で光学機能発現、実用化着々「コロイド結晶」の世界
コロイド結晶が実用化に向けて一歩一歩進んでいる。コロイド結晶は数十から数百ナノメートル(ナノは10億分の1)の微粒子を緻密に並べて光学機能を持たせる技術だ。量子ドットは量子効果を制御して光らせるのに対して、コロイド結晶は周期性を制御して構造色を発する。どちらもコロイド化学から生まれ、長く用途開発が進められてきた。産業界と学術界の取り組みを追う。(小寺貴之)
「パターンは1京通り、唯一無二の透明タグになる」―。村田製作所の山野和彦プリンシパルエンジニアは透明な個体識別タグについて力説する。コロイド結晶は微粒子を並べる際に六方最密充填構造や体心立方格子など、さまざまな結晶構造が形成される。さらに構造の違う結晶領域がいくつも散在するため、光を当てるとさまざまな反射パターンが得られる。そして特定のパターンを狙って作れないため、個体識別に利用できる。
タグは透明であるため、高級腕時計などに貼り付けてもデザインを損なわない。さらにタグの位置が分からなければ貼り替えも防げる。谷田登研究員は「タグを壊れやすいよう調整できる。開封したらパターンが変わるなど、開封検出と個体識別を組み合わせたセキュリティーの仕組みを作れる」と説明する。
コロイド結晶を作るには粒子径のそろった微粒子が必要だ。この微粒子が高価だったが、現在は再生技術が開発されている。東京理科大学の古海誓一教授らはシリカ粒子を包む高分子を工夫した。シリカ粒子表面を軟らかい高分子層で包み、その上に硬い高分子層を作る。硬い層が粒子間をつなぎ、コロイド結晶シートがよく伸びるようになった。
シートが伸びると粒子の間隔が変わり、構造色は赤から青に変わる。歪みを可視化できる。シートが伸びきったり破断したりしたら素材を集めて再度シート状に成形する。二層の高分子層のおかげで機能も復元される。古海教授は「異物が混ざってもろ過で簡単に取り除ける」と説明する。
コロイド結晶は単純な原理で光学機能を発現できる。ただ材料だけでは製品として完結せず、計測やデータ管理、再生プロセスなど周辺を含めた技術の成熟を待っていた。産業界も本気になったため、コロイド結晶が街中で輝く日は遠くないかもしれない。
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