【ディープテックを追え】強度は鉄鋼の20倍、「CNT」の用途広げるスタートアップの製造法
アルミニウムの半分の軽さながら、鉄鋼の20倍の強度を持つカーボンナノチューブ(CNT)。CNTは日本で生まれ、一部の製品で実用化されている。ただ用途を広げるには、コストを下げながら品質を高める必要がある。カーボンフライ(東京都江東区)はこれまでと異なる製造方法を導入し、安価で高品質なCNTの普及を目指す。
カーボンフライの鄧飛(テンフィ)社長は「CNTは品質を高めれば、コストが上がる。高品質なCNTを広げるには、このトレードオフを解消する必要がある」と話す。理想的なCNTは金属より軽く、高い強度を持つ素材。現在はリチウムイオン電池を形成する際の電極の抵抗を低減する導電助剤などで活用される。より品質を高めればCNTを繊維やフィルムに加工し、宇宙分野などで活用できる可能性がある。
これまでの製造方法としては加熱したチャンバーにナノ粒子の触媒と炭素ガスを上部から投入し、攪拌することでCNTを成長させるなどの方法がある。これらの方法の場合、「長さや直径が不均一だったり、CNT同士が絡まったりすることで加工が難しくなる」(テン社長)。
同社では触媒をスパッタリングで蒸着させた後、炭素ガスを吹き込み、CNTを成長させる。攪拌するのではなく、それぞれ独立した触媒の上にCNTを成長させることで、長さや直径を均一に制御できる。従来のパウダー状のCNTだけでなく、繊維やフィルムのCNTも作れる。
すでに年産5トンのCNTを製造できる設備を開発済みだ。専用工場が必要なく、オフィスビルなどの電源で稼働できる。同社はCNTを使って製品を作るメーカーの工場内に同設備を導入。メーカーが必要な量だけ製造し、使えるようにする。
テン社長は「(設備で製造したCNTを使った)メーカーと利益をプロフィットシェアすることで、我々のCNTを広げたい」と話す。CNTを素早く普及させ、最終製品の用途を広げたい考えだ。短期ではバッテリー分野などで応用し、将来は金属製品の代替を狙う。
2024年中には人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)を活用し、設備を自動操作できるようにする。「設備を世界中に広げ、CNTがさまざまな製品に使われるようにしたい」(テン社長)と展望する。
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