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【ノーベル賞受賞】カタリン・カリコ氏、ドリュー・ワイスマン氏インタビュー<再掲>

【ノーベル賞受賞】カタリン・カリコ氏、ドリュー・ワイスマン氏インタビュー<再掲>

カタリン・カリコ氏

2023年のノーベル生理学医学賞が2日発表され、独ビオンテックのカタリン・カリコ氏と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン氏が選ばれた。両氏は遺伝情報を伝える物質「メッセンジャーRNA(mRNA)」を使ったワクチンの実現に欠かせない基盤技術を開発した。日刊工業新聞社では、22年に両氏にインタビューしている。その模様を再掲する。

国際科学技術財団は、「物質・材料、生産」分野における2022年の日本国際賞を、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの開発に貢献した独ビオンテック上級副社長(米ペンシルベニア大学特任教授)のカタリン・カリコ氏と、共同で研究した米ペンシルベニア大学教授で同僚のドリュー・ワイスマン氏に贈ることを決めた。「mRNAワクチン開発への先駆的研究」が授賞業績。mRNAに着目した理由やmRNA医薬の可能性などについて両氏に聞いた。

独ビオンテックのカタリン・カリコ氏 病に苦しむ人救いたい

―mRNA研究を始めたきっかけは。
 「多くの病気は遺伝性ではない。一時的な病気であれば、たんぱく質の投与で治療を加速できるのではないかと考えた。創傷治癒などは一時的にたんぱく質を必要としている。リボ核酸(RNA)によって簡単に投与できるのではないかと思って研究を始めた。RNAの周辺を適切な脂質やポリマーで包むことで活用の幅はさらに広がるだろう」

―mRNA研究を通してどんな人間社会を目指していますか。
 「常に目標として病気を治したいと考えてきた。いまだに治療法が見つかっていない非常に多くの病気に対する医療ニーズがある。病気で苦しんでいる人を救いたい」

―mRNA医薬は今後の医療を変える可能性があります。
 「新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)ではワクチンとして使われているが、ほかにさまざまな臨床試験が進んでいる。今後、応用分野でも使われていくだろう」

―感染症ワクチンの普及に向けて一般人との適切な対話方法は。
 「科学者の対話はまだまだ十分ではない。専門的な言葉で話をしても理解されない。もっと平坦な言葉で伝える必要がある」

【略歴】78年ハンガリー・セゲド大学卒、82年同大で博士号取得。89年米ペンシルベニア大助教、13年独ビオンテック副社長、19年上級副社長、21年米ペンシルベニア大特任教授、セゲド大教授。ハンガリー出身。

米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン氏 全ての低中所得国に供給

―なぜ、RNAに着目したのですか。
 「RNAはすばらしい潜在性がある。さまざまな病気に対して、ワクチンとしても治療薬としても可能だと考えた。一つの目的ではなく、さまざまな病気に対応できる新たなプラットフォーム(基盤)を構築したいと考えた。RNAの可能性はとても大きい。キメラ抗原受容体T細胞(CAR―T細胞)をマウス体内で作製することにも成功し、論文発表したばかりだ」

ドリュー・ワイスマン氏

―世界的には新型コロナワクチンの供給に偏りがあります。
 「ワクチンを全ての低中所得国に届けたい。各国が独自ワクチンを製造する能力を提供したい。これは余ったワクチンを提供するということではない」

―コロナ収束に向けた今後の方向性は。
 「コロナウイルス全般に対するワクチン開発を進めている。この20年間で3回、パンデミックがあった。今後に備える必要がある。半年くらい先に臨床試験を始めたい」

―科学者と一般人をつなげる科学コミュニケーターへの期待は。
 「重要な視点だ。その集団にとって適切な人を見つけ、その人がコミュニケーションすることが重要だ。ワクチン反対派の集団に私やカリコ博士が行っても彼らは耳を傾けない」

【略歴】81年米ブランダイス大卒、87年米ボストン大で博士号取得。97年米ペンシルベニア大助教、13年教授、21年ペンシルベニアRNAイノベーション研究所所長。米国出身。
日刊工業新聞 2022年01月27日<再掲>

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