東北で新しい都市づくり「会津若松編#1」ーICT産業の育成に走る
ビッグデータ解析で市民サービス向上、農業・観光を再興
東北の自治体が企業とタッグを組んで地域活性化に挑んでいる。福島県会津若松市はアクセンチュアなど20社と提携し、情報通信技術(ICT)産業の育成に取り組む。岩手県遠野市は富士ゼロックスと連携し、首都圏の企業関係者を呼び込んでいる。二つの市とも大企業と地域が密接にかかわり、地元の既存産業も活性化している。工場誘致に代わる地方創生のモデルとして全国から注目されそうだ。
会津若松市は2015年末、市民に生活情報を配信するICTサービス「会津若松プラス」を始めた。登録した市民には自分専用ホームページ(HP)が用意され、子育て中の女性なら児童手当や保育園の情報が目立つ位置に表示される。検索履歴を分析して商品を薦めるネット販売サイトのように、使えば使うほど一人ひとりに役立つ情報が届く。
市企画政策部の村井遊氏は「市のHPは情報過多で、欲しい情報を探すのが大変。それに忙しい人ほど情報が見過ごされている。会津若松プラスは市民に必要な情報を“押し出す”イメージ」と説明する。
11年の東日本大震災後、市はビッグデータ(大量データ)を解析して新しいサービスを生み出すアナリティクス産業の育成に乗りだした。会津若松プラスは成果の一つだ。15年7月にアクセンチュア、米インテル、NEC、富士通など20社以上が参加する連携協議会を発足させた。会津若松のような人口12万人の地方都市が、これだけ多くの企業と提携するのは珍しい。
市は街を“実験の場”として提供する。企業は解析手法やサービスを実社会で試し、開発にフィードバックできる。協議会に参加する日本郵便は、インターネットで郵便を配達する「マイポスト」を会津若松プラスに導入した。1月に開始したばかりのマイポストの使い勝手を市民に検証してもらい、普及につなげられる。
地元企業として参加するスーパーのリオン・ドールコーポレーションは、電子チラシを会津若松プラスで配信している。同社は反響をチラシ作りに反映でき、会津若松プラスも同社からの意見を生かして利便性を高められる。
農業や観光でもICTの活用が始まった。農業ではイオンや東京農業大学と連携し、栽培から店頭までの農作物の栄養価や水分量の変化を測定している。企画政策部の青山一也氏は「集めたビッグデータを解析し、店側がほしい農作物を作れるようになると農業の競争力につながる」と期待する。
街が実験場となり、ICT産業の育成が市民サービス向上、地元企業や農業、観光の活性化につながる相乗効果が生まれる。
アクセンチュアが11年に市と協定を結び、地域活性化戦略を練り上げた。同社福島イノベーションセンターの中村彰二朗センター長は「都市や市民向けのシステム開発は企業にとってビジネスチャンス」と語る。地方活性化に取り組む自治体は多く、会津若松での知見は他の自治体にも展開できる。
―なぜICTだったのですか。
「08年のリーマン・ショック後、地域経済を支えていた半導体工場が縮小した。製造業は大事な産業ではあるが、雇用拡大が見込めにくい。だからこれから伸びるICTに目をつけた。市にはICT専門の会津大学もあり、企業も連携できる」
―提携企業が多いです。
「土俵を大きくした。企業が競い合えばアイデアが出やすい。ICTなので、職場が東京である必要はない。大企業で活躍する人がやってくると、地元企業にも刺激になる」
―雇用創出は。
「ICT産業は会津大の卒業生の受け皿になる。市長公舎だった古民家を改修し、15年末に企業のサテライトオフィスを開設した。18年には600人が勤務できるICT専門のオフィスビルも開業予定だ」
―順調ですか。
「多くの企業との出会いがあり、ICT関連で市を訪ねる人が増えた。今は折り返しの段階。運動量を拡大し、訪ねる人をもっと増やしたい」
(松木喬)
福島県会津若松市はNECや富士通、イオン、日本郵便など20社以上が参加し、新規ビジネスを創出する協議会を13日に設立する。市は街を実証実験の場として提供し、企業にビッグデータ解析を中心とした新規ビジネスを開発してもらう。雇用創出と同時にデータ解析を農業や観光業の活性化に生かす地域密着型産業に育てる。これまで市は企業と個別に連携協定を結んできたが、企業に一堂に結集してもらうことで地方創生への取り組みを加速する。
13日、参加企業の首脳が集まり、協議会の設立を正式に決める。アクセンチュア、セールスフォース・ドットコム、日本オラクル、ゼビオ、ポニーキャニオンなど、さまざまな業種から企業が参加する。ICT専門の会津大学、地元の東邦銀行なども加わる。
市はビッグデータを解析し新サービスを生み出すアナリティクス産業を地域活性化の起爆剤に位置づけている。協議会の参加企業は実際の街の“生きた情報”を使い、実践的な環境で解析手法を開発できる。流通やホテルなど他の業界からの参加企業ともサービス開発で連携できる。
市はイオンと農業分野で協力関係にある。富士通とはスマートシティー構築事業に取り組む。新たに参加するポニーキャニオンは会津にゆかりがあるアニメ、日本郵便はICT関連で新規ビジネスを模索する。
地域経済を支えていた半導体工場が2008年秋のリーマン・ショック後に生産を縮小。市にとっては製造業にかわる雇用の受け皿づくりが急務となっている。アナリティクス産業の育成は内閣府から地方再生法に基づく地方再生計画の認定を受けた。市はすでにICT関連企業が集積するオフィスビルの建設も決めている。
会津若松市は2015年末、市民に生活情報を配信するICTサービス「会津若松プラス」を始めた。登録した市民には自分専用ホームページ(HP)が用意され、子育て中の女性なら児童手当や保育園の情報が目立つ位置に表示される。検索履歴を分析して商品を薦めるネット販売サイトのように、使えば使うほど一人ひとりに役立つ情報が届く。
市企画政策部の村井遊氏は「市のHPは情報過多で、欲しい情報を探すのが大変。それに忙しい人ほど情報が見過ごされている。会津若松プラスは市民に必要な情報を“押し出す”イメージ」と説明する。
11年の東日本大震災後、市はビッグデータ(大量データ)を解析して新しいサービスを生み出すアナリティクス産業の育成に乗りだした。会津若松プラスは成果の一つだ。15年7月にアクセンチュア、米インテル、NEC、富士通など20社以上が参加する連携協議会を発足させた。会津若松のような人口12万人の地方都市が、これだけ多くの企業と提携するのは珍しい。
市は街を“実験の場”として提供する。企業は解析手法やサービスを実社会で試し、開発にフィードバックできる。協議会に参加する日本郵便は、インターネットで郵便を配達する「マイポスト」を会津若松プラスに導入した。1月に開始したばかりのマイポストの使い勝手を市民に検証してもらい、普及につなげられる。
地元企業として参加するスーパーのリオン・ドールコーポレーションは、電子チラシを会津若松プラスで配信している。同社は反響をチラシ作りに反映でき、会津若松プラスも同社からの意見を生かして利便性を高められる。
農業や観光でもICTの活用が始まった。農業ではイオンや東京農業大学と連携し、栽培から店頭までの農作物の栄養価や水分量の変化を測定している。企画政策部の青山一也氏は「集めたビッグデータを解析し、店側がほしい農作物を作れるようになると農業の競争力につながる」と期待する。
街が実験場となり、ICT産業の育成が市民サービス向上、地元企業や農業、観光の活性化につながる相乗効果が生まれる。
アクセンチュアが11年に市と協定を結び、地域活性化戦略を練り上げた。同社福島イノベーションセンターの中村彰二朗センター長は「都市や市民向けのシステム開発は企業にとってビジネスチャンス」と語る。地方活性化に取り組む自治体は多く、会津若松での知見は他の自治体にも展開できる。
室井照平市長に聞く「会津大強み、これから伸びる」
―なぜICTだったのですか。
「08年のリーマン・ショック後、地域経済を支えていた半導体工場が縮小した。製造業は大事な産業ではあるが、雇用拡大が見込めにくい。だからこれから伸びるICTに目をつけた。市にはICT専門の会津大学もあり、企業も連携できる」
―提携企業が多いです。
「土俵を大きくした。企業が競い合えばアイデアが出やすい。ICTなので、職場が東京である必要はない。大企業で活躍する人がやってくると、地元企業にも刺激になる」
―雇用創出は。
「ICT産業は会津大の卒業生の受け皿になる。市長公舎だった古民家を改修し、15年末に企業のサテライトオフィスを開設した。18年には600人が勤務できるICT専門のオフィスビルも開業予定だ」
―順調ですか。
「多くの企業との出会いがあり、ICT関連で市を訪ねる人が増えた。今は折り返しの段階。運動量を拡大し、訪ねる人をもっと増やしたい」
(松木喬)
新規ビジネスを創出する協議会設立
日刊工業新聞2015年7月1日
福島県会津若松市はNECや富士通、イオン、日本郵便など20社以上が参加し、新規ビジネスを創出する協議会を13日に設立する。市は街を実証実験の場として提供し、企業にビッグデータ解析を中心とした新規ビジネスを開発してもらう。雇用創出と同時にデータ解析を農業や観光業の活性化に生かす地域密着型産業に育てる。これまで市は企業と個別に連携協定を結んできたが、企業に一堂に結集してもらうことで地方創生への取り組みを加速する。
13日、参加企業の首脳が集まり、協議会の設立を正式に決める。アクセンチュア、セールスフォース・ドットコム、日本オラクル、ゼビオ、ポニーキャニオンなど、さまざまな業種から企業が参加する。ICT専門の会津大学、地元の東邦銀行なども加わる。
市はビッグデータを解析し新サービスを生み出すアナリティクス産業を地域活性化の起爆剤に位置づけている。協議会の参加企業は実際の街の“生きた情報”を使い、実践的な環境で解析手法を開発できる。流通やホテルなど他の業界からの参加企業ともサービス開発で連携できる。
市はイオンと農業分野で協力関係にある。富士通とはスマートシティー構築事業に取り組む。新たに参加するポニーキャニオンは会津にゆかりがあるアニメ、日本郵便はICT関連で新規ビジネスを模索する。
地域経済を支えていた半導体工場が2008年秋のリーマン・ショック後に生産を縮小。市にとっては製造業にかわる雇用の受け皿づくりが急務となっている。アナリティクス産業の育成は内閣府から地方再生法に基づく地方再生計画の認定を受けた。市はすでにICT関連企業が集積するオフィスビルの建設も決めている。
日刊工業新聞2016年3月7日「深層断面」から抜粋