塩野義製薬とシオノギヘルスケア（大阪市中央区）、筑波大学発ベンチャーのピクシーダストテクノロジーズ（東京都千代田区）が取り組むガンマ波変調技術を活用した事業が軌道に乗ってきた。音声を聞きやすく加工したガンマ波サウンドは認知機能改善の可能性があるとされ、変調技術を用いたテレビスピーカーを導入する高齢者施設や店舗が増えてきた。塩野義グループは創薬型製薬会社からへルスケアサービスを提供する会社への変革を目指しており、新技術で新たな価値を生み出そうとしている。（大阪・市川哲寛）

ガンマ波変調技術はテレビなどの音声の音源をナレーションやボーカルなど人の声と、背景音や楽器音に分離して個別に４０ヘルツ変調する。背景音などは揺れるような音に加工され、人の声が聞きやすくなる。

ものごとを覚える時や集中する時に出る脳波のガンマ波はアルツハイマー型認知症で低下しているとされる。生活音に４０ヘルツ音を入れ込むと音の刺激によって脳内でガンマ波が引き起こされ、同期する可能性があるとされる。

塩野義グループは「治療薬に加え病気の予防や予後も含め健康を一気通貫でサポートする」（加曽利一樹シオノギヘルスケア経営戦略部長）へルスケアサービス企業への変革を目指している。ガンマ波変調技術を用いた第１弾として、テレビスピーカー「ｋｉｋｉｐｐａ（キキッパ）」を４月に発売した。通信機能を内蔵しており、新技術をアップデートできるのに加え、離れて暮らす家族が利用者の使用頻度などを確認することで見守りに活用できる。

家電量販店や体験型店舗、学研ココファン（東京都品川区）が運営する高齢者住宅に採用されている。さらに東京の医院や老人ホーム、自治体が手がける認知症患者向けカフェなどから引き合いがある。個人では「親や祖父母へのプレゼントの需要がある」（同）。販売実績は非公表だが、日常生活に取り入れやすいガンマ波音響機器の拡販が見込める。

徐々に技術が認められ、新サービス開発への動きがここにきて相次いでいる。ＮＴＴドコモがガンマ波サウンドと健康マイレージをかけ合わせたサービス拡充を、ＳＯＭＰＯひまわり生命はガンマ波サウンドを活用した新サービス開発を検討している。Ｇａｋｋｅｎ（東京都品川区）は通所介護利用者向けにガンマ波サウンドを取り込んだ新たなコンテンツを作成する予定。

また、三井不動産グループはオフィスワーカーの生産性向上での活用を検討している。

高齢者の孤立化や生活の質（ＱＯＬ）低下などに対応する技術であるエージテックの市場は今後、伸長が見込まれている。「世界の健康増進に貢献する」（同）ことで高齢化社会の課題解決につなげる。