パナソニックHD・ダイキン…相次ぐ新工場、インドで生産拡大の背景
インドに新工場を設ける日系大手が相次いでいる。パナソニックホールディングス(HD)が2022年4月に配線器具のスリシティ工場(アンドラ・プラデーシュ州)を稼働し、ダイキン工業も23年後半に同州で空調機のインド第3工場を新設する。両社は優秀な人材の確保を重視し、育成や職場改善にもいち早く手を打つ。同国は人口が世界一になり、高成長も続く。現地で深めてきた知見を生かし事業拡大の好機に挑む。(大阪・田井茂)
パナソニックHD傘下でコンセントやスイッチなどを手がけるパナソニックエレクトリックワークス(EW)社のスリシティ工場とダイキン第3工場は、スリシティ工業団地にそろって立地する。インド南部のチェンナイから北へ55キロメートルにあり、面積は4000万平方メートル超と工業団地では同国最大級。南部特有の赤土に、巨大な工場が広い間隔で立ち並ぶ。立地205社のうち約20社を日系が占める。
「あと二つ建屋を造れる土地も取得した。30年以降に増設を考えている」。パナソニックEWインドの小林健太郎製造担当責任者はスリシティ工場の目の前に広がる土地を指さし、こう説明する。パナソニックEWは07年に同国北部の工場で生産を始め、西部にも工場を置く。先行者利益をつかみ、配線器具で同国シェア約40%を握る。新たにスリシティ工場も加え、迅速な製品供給やサービスを全土で強化する考えだ。
一方、スリシティ工場の近くではダイキン第3工場がほぼ完成した。すでに関係者が多く集まり、本格稼働は目前に迫る。現地法人のカンワル・ジート・ジャワ最高経営責任者(CEO)は22年9月に来日した際に、「ダイキンはインドで国産化や経営の現地化を進め、10年で売上高を10倍に伸ばした」と強調した。インド北部の第1・第2工場ですでに生産し、エアコンは同国シェア20%で首位。業務用も同60%を握る。第3工場も稼働すれば、広大な国土をカバーできる。
両社が生産を拡大する背景には、インドが年率7%以上で成長が続き、平均年齢は約28歳と若く人材も得やすい好条件がある。人件費は上がっているが、日本の約10分の1からと依然安い。半面、厚遇を求めた転職が多い。「従業員が丸ごと別会社の工場に移ったり、営業も頻繁に入れ替わったりする」(日系企業の駐在員)。このため優れた人材の確保は極めて重要になる。
パナソニックEWインドは現地で06年から技能教育校を運営し、約2000人輩出してきた。無償で若者を育て、自社以外の就職も支援する。スイッチの組み立て以外に部品製造、家電とスマートフォンの修理を教える。工場には託児所を設け、子育て世代も安心して働ける。
ダイキンも高度な技能を持つ学生の育成を始めたほか、21年には従業員が安心して働けるよう、新型コロナウイルスワクチンの職域接種も先駆けて実施した。
インドも豊かになるにつれ、欧米製のモノの人気が高まっている。日系は自動車のスズキをはじめ強いが安閑としていられない。部品からの現地生産拡大や人材育成への協力が、共存共栄には欠かせない。
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