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インボイス制度への対応は大丈夫?実態調査から見えた意外な落とし穴

2023年10月のインボイス制度導入まで、残り1カ月を切った。制度開始後に企業が仕入税額控除の適用を受けるためには、適格請求書の発行や要件を満たした保存など、さまざまな対応が必要とされる。本記事では、企業によるその対応がどの程度進んでいるのか、その実態を明らかにし、見落としがちな注意点を紹介する。(全2回)

請求書の「発行」に関する対応は順調に進んでいる

インボイス制度の開始を控え、多くの企業が制度への対応を進めている。Sansanが実施した調査(※)によると、請求書関連業務に携わる1000人のビジネスパーソンのうち、インボイス制度開始に向けた対応を「進めている」と答えた人は88.3%に上った。インボイス制度への意識は高く、対応も順調に進んでいると言えるだろう。

※Sansan「インボイス制度に関する実態調査」(2023年7月)
https://jp.corp-sansan.com/news/2023/0719.html

さて、ここで言う「対応」とは、いったいどのような内容を指すのか、具体的に説明したい。

多くの企業で対応済みであると言えるのが、「適格請求書発行事業者の登録」だ。国税庁の発表によると、2023年6月末時点で適格請求書発行事業者として登録されている件数は350万件を超えており、順調に推移していることがわかる。

この登録がなければ、企業はそもそも適格請求書を発行できない。そのため、適格請求書発行事業者への登録は、インボイス制度対応の「はじめの一歩」とも言える。

こうした一歩を踏み出した企業は、「登録番号の取得」→「取引先への周知」→「既存の請求書フォーマットを変更し、登録番号の記載を開始」と、順調にステップを踏んでいるようだ。実際に、ホームページに登録番号を掲載したり、取引先へ手紙を送付したりして、インボイス制度対応の進捗を明示している企業も目立つ。

これらは請求書の「発行側」としての立場に立った対応であり、自社発信で対応できるものであるため、進めやすい側面があるだろう。

もし、はじめの一歩をまだ踏み出していないという企業があれば、2023年9月30日までに申請しなければならない。申請書を9月30日までに提出すれば、制度開始日である10月1日までに登録通知が届かなかった場合でも、同日から登録を受けたものとみなされる。

「発行」が順調な一方、「受領」の対応は遅れている実態

請求書の「発行」に関する対応が順調に進んでいるのに対して、実はあまり進んでいないのが「受領」の対応だ。先述したSansanの調査でも、制度対応を進めていると回答した人のうち、適格請求書の受領に関わる準備を「完了している」と答えた人はわずか22.5%にとどまった。請求書を発行するための準備を進めている企業は多い一方、自社が受け取る請求書の処理に関する対応準備は遅れているのが現状なのだ。

自社発信で対応できる「発行」と異なり、「受領」の対応は「取引先が適格請求書発行事業者であるか」や「送られてくる請求書のフォーマットがどのようなものか」といった事情に依存する。自社でコントロールできるものではないため、受領の対応は後手に回ってしまうことが多い。

しかし「受領」の対応は、自社が収める消費税に関わる仕入税額控除の適用を受けるために不可欠である。具体的には、まず受け取った請求書が適格請求書であるかどうか、そして記載されている登録番号が正しいかどうかの「確認」が必要だ。次に、インボイス制度で変更された計算方法で、正しく消費税額を計算し、「検算」を行う。そして、受け取った請求書を、電子帳簿保存法で定められた要件を満たして「保存」しなければならない。

こうした受領に関する対応は、新たな確認工数が発生したり、社内のルール策定が必要になったりする。請求書の処理に関する業務フローを再構築する必要があり、対応に時間がかかっていると推測される。また、一通りの対応準備を完了したとしても、業務負荷の増大や、実際の運用がスムーズに行くか不安を感じている企業も多いだろう。

自社が発行する適格請求書についての対応を完了したことで「自社はインボイス制度の対応ができている」と安心していても、実は受領に関する業務体制の整備は不十分であったりしないだろうか。

後編では、インボイス制度対応フロー再点検の「すすめ」と題し、制度対応によって発生する「受領」「発行」業務を再整理すると共に、対応方法について解説したい。

柘植 朋美:Sansan株式会社 Bill One 事業部 チーフプロダクトマーケティングマネジャー
新卒で大手人材会社に入社し、海外事業企画に従事。その後、大手ERP会計ベンダーにてコンサルタント業を経て、2016年にSansanへ入社。エンタープライズ領域でのカスタマーサクセスマネジャーを3年経験後、新規事業の開発を担当。現在はBill Oneのプロダクトマーケティングマネジャーとして、電子帳簿保存法やインボイス制度の啓発活動にも力を入れている。

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