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東京医科歯科大と東工大が「科学大」に新研究所、実現する「リサーチホスピタル」とは?

東京医科歯科大と東工大が「科学大」に新研究所、実現する「リサーチホスピタル」とは?

両大学は研究テーマを紹介し合い、具体的な共同研究につなげている(東京医科歯科大提供)

東京医科歯科大学と東京工業大学は2024年10月に統合を予定する「東京科学大学」(仮称)に、医工連携の要となる「医療工学研究所」を新設する。東京医科歯科大の湯島キャンパス(東京都文京区)の病院に隣接し、産業界からの期待が大きい臨床データ活用など、新しい医療技術を病院の機能を活用して研究・開発する「リサーチホスピタル」を実現する。

医療データの活用について、現在は病院内の臨床試験センターが電子カルテから個人情報を除いたデータを管理・提供している。これらのデータは知的財産としての価値が高い。新設する医療工学研究所に機能を移し、研究・産学連携の体制を整える。ほかに医療機器や新型感染症、アルツハイマー病など先進的なテーマを扱い、研究支援のリサーチアドミニストレータ(URA)を常駐させる。

東京医科歯科大の医学部、歯学部と付属病院による教育・研究・診療は湯島地区に集中している。施設やスタッフは重複するが、日々の収入がある診療に比べ、投資が大きい未来志向の研究を病院で進めにくい面がある。リサーチホスピタルの考え方を導入し、位置付けを明確にする。

近く完成する付属病院機能強化棟(C棟)には救急センターや集中治療室(ICU)が移ってくる。通常は入れない手術室など、これまでの部屋を新研究所に向けたモデルルームにし、研究者の交流を後押しする。

両大学は統合に向け、双方の研究者がペアになった共同研究への研究費支援制度も整備。37件の申請から、人工知能(AI)で性能を高める病原微生物センシングや、アルツハイマー病治療に期待される生体因子のリボ核酸を脳内に届けるナノマシンなど、23件を採択している。

日刊工業新聞 2023年08月25日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
大学の社会貢献で、国民がもっとも恩恵を感じるのは、医学部付属病院による診療だろう。一般人にとっては「今」患っている難しい病気を、治療してくれる大学病院こそ、頼れる存在だ。東京医科歯科大の場合、新型コロナの重症患者を他大学よりかなり積極的に受け入れてきたため、その切り口での社会評価も高い。治療を重ねる中で、医学研究が進む面も、もちろん大きい。しかし、それだけでは十分ではない、と田中学長は考えている。診療データの活用など「未来」の医学・医療に向けて、病院の機能を使った新たな研究に先行投資するー。「リサーチホスピタル」という言葉には、こんな考え方が盛り込まれている。

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