近づきつつある中国勢の足音…トヨタは投資強化で牙城守れるか
トヨタ自動車が東南アジア諸国連合(ASEAN)の取り込みを強化している。タイやフィリピンで、相次ぎ新型車を発表。豊田章男会長自ら現地に赴き、投資強化の姿勢を打ち出す。現在、トヨタが圧倒的な存在感を示しているASEANだが、電気自動車(EV)で攻勢をかける中国勢の足音は近づきつつある。トヨタにとって販売台数を伸ばせるグローバルサウス(南半球を中心とした新興・途上国)は重点市場。戦略加速に向け、アクセルを踏む。(編集委員・政年佐貴恵)
「私たちはクルマ以上に、この国に貢献したい。経済的な機会を促進する手助けをしたい」―。トヨタ・モーター・フィリピン(TMP)の設立35周年記念式典で、豊田会長は熱弁を振るった。TMPのアルフレッド・ティ会長は、トヨタが2000年以降、グループで累計737億ペソ(約1886億円)を投資し、97年以降、部品などで187億6000万ドル(約2兆7200億円)相当を輸出してきたと説明。地域経済のけん引役を果たしてきたと訴える。
ASEANで不動の地位を築き上げたトヨタ。だが最近、その市場環境には異変が生じ始めている。脱炭素化に伴う急激なEVシフトが要因だ。
ある自動車向け素材メーカー幹部は「タイ、インドネシア、フィリピンのEV比率が上がっている。中国の新興自動車メーカーの勢いが増している」と話す。インドなどを含め、グローバルサウスではEV投資への関心が高まっており、EV輸出を強化したい中国勢が日系メーカーの牙城を崩そうと狙う。
トヨタは22年末にタイでアジア戦略車となる新型多目的車「IMV0(ゼロ)」を披露し、今回、フィリピンでも派生2車種の現地生産を表明。トヨタ幹部は「中国勢に対し、しっかりと商品でディフェンスする」と力を込める。フィリピンではマルコス大統領による現地工場の視察も実現。EVだけではなくハイブリッド車(HV)などを含めた脱炭素化戦略や、雇用への影響に対する理解活動を通し、官民連携を強化していく方針も確認した。
トヨタは生産拠点の立ち上げやサプライチェーン(供給網)の構築、人材育成といった長年の投資で、ASEAN市場での基盤を作り上げてきた。地域との強固な関係性を次世代の成長につなげるための戦略が、今後一層重要になる。
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