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マイクロ波で電力飛ばす…“本当の”ワイヤレス給電で宇宙に挑む

マイクロ波で電力飛ばす…“本当の”ワイヤレス給電で宇宙に挑む

送信機からマイクロ波を発信し、古川社長が持つ受信機を通じて電球を光らせた

スペースパワーテクノロジーズ(SPT、京都市西京区、古川実社長)は、ワイヤレス給電で宇宙に挑む。同社のワイヤレス給電はスマートフォンなどで一部導入されている非接触充電と異なり、空間内をマイクロ波により電力が移動する。このほど、名古屋工業大学や日本ガイシなどと提案した「地球と宇宙で使える24ギガヘルツ高効率大電力伝送システム」などが宇宙航空研究開発機構(JAXA)により採択された。(大阪・石宮由紀子)

スマートフォンの充電に取り入れられるなど、ケーブルを必要としない充電は少しずつ定着してきた。しかし部分的に充電器に接する必要がある現状では、完全にワイヤレスとは言いがたい。電波のように空間をエネルギーが行き交う仕組みがあれば、場所や時間などあらゆる障壁を越えた使用が可能になる。そこでSPTが開発を進めるのは、マイクロ波で電力を飛ばしていくシステムだ。「他社の10倍程度の高出力なアンテナ」(古川実社長)を用いることで、本当の意味の「ワイヤレス給電」を可能にしようとしている。

SPTは、無線通信機器メーカー出身の古川社長が19年に設立した。古巣の企業でワイヤレス給電を研究していたが、開発の継続が厳しくなったのを機に独立。さらに、ワイヤレス給電分野の著名な研究者で、電子情報通信学会WPT研の初代委員長を務めた京都大学の篠原真毅教授を科学顧問に迎えた。

以降ワイヤレス給電システムは、ピッキング作業を効率的に行いたいとする物流向けに試作品を納入するなど着実に実績を積み上げてきた。そうしたなかで7月、JAXAから24ギガヘルツ高効率大電力伝送システムの開発などで採択された。研究期間は、10月から25年9月頃までになる。地上と環境が大きく異なる宇宙空間でワイヤレス給電が可能になれば、宇宙活動で必要なエネルギーの確保の飛躍的な向上が期待できる。

このグループで手がける研究のうち、SPTは24ギガヘルツ帯の高出力受送電機を開発する。周波数が大きくなるほど、エネルギー効率は高まる特徴がある。日本ガイシや名工大がマイクロ波を直流に変換する「マイクロ波整流素子」を作製し、これを回路に実装。その回路をアンテナと組み合わせて受電機を作製する。このほかにも、月面探査車「YAOKI」の利用を想定し、作製した送電機と受電機を使って送電試験を行う。「送電機を手掛けるのはグループ内で当社のみ」(古川社長)という。

京大桂ベンチャープラザ内のSPTの本社には設計や開発を行うスペースのほか、試作品の動作を確認できる設備がある。すべてを1カ所にまとめる理由を古川社長は、「試作評価のスピードを速めるため」と説明する。構想から事業化までのスピード感を出せるのは、ベンチャーならでは。一気通貫で開発を進められる環境を活用して、宇宙で通用するワイヤレス給電システムの確立を目指す。

日刊工業新聞 2023年08月21日

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