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政府系ファンドがシャープ再建で提起した銀行の経営責任

産業革新機構が自らの存在意義を問い直すことも必要
政府系ファンドがシャープ再建で提起した銀行の経営責任

シャープの高橋興三社長(左)と産業革新機構の志賀俊之会長兼CEO

 政府系ファンドの産業革新機構は、シャープ再建を巡る台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業との攻防で最後の一線を守ったといえる。”買収合戦“を過熱させず、潔く身を引いた判断は賢明だ。もし税金がマネーゲームに投じられるようなら国民の理解を得ることは難しく、モラルハザード(倫理観の欠如)のそしりは免れなかった。

 革新機構の使命は、民間ではカバーできないリスクを引き受けて産業のグローバル競争力を強化する成長資金の供給にある。単なる企業救済は自らの存在意義を否定する行為に他ならない。

 同社の志賀俊之会長は、シャープ支援について鴻海案とは「全くコンセプトの異なる二つの提案だ」と強調していた。結果としてシャープ側がグループ一体再生や経営陣残留などの現状維持にこだわり、鴻海を選択。最終契約に向けた調整が進んでいる。「人事を尽くして天命を待つ」形の革新機構に吉報は届かなかった。

 とはいえ革新機構の提案自体にも無理が散見された。東芝との家電事業統合など電機業界再編の軸としてシャープを活用するプランは一見、魅力的だ。しかし、これによって韓国のサムスンやLG、米ゼネラル・エレクトリックの家電事業を買収する中国の海爾集団(ハイアール)と世界市場で対等に戦える体制が整うかどうかは、はなはだ疑問だった。

 革新機構は、シャープの主力取引銀行の”経営責任“を追及する姿勢を変えなかった。シャープは2012年の経営危機以降、実質的な銀行管理会社だった。主力行は役員派遣などで経営にかかわってきたものの、結局は成長路線に戻すことができなかった。

 このため革新機構は、債権放棄などの金融支援で銀行が責任を負うのが筋だと譲らなかった。一部銀行の反発は強く、これがシャープが鴻海傘下入りを選択する一因となったようだ。

 外資による初の電機大手買収という形で幕を閉じた今回のシャープ再建劇。実際に再建が成るかどうかは今後の事業運営次第だが、革新機構が提起した銀行の責任問題は忘れてはならないだろう。
日刊工業新聞2016年3月3日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
今回のディールは銀行の大勝利と思われたが、鴻海の契約締結延長と駆け引きで雲行きが怪しくなってきた。鴻海から債権放棄を求められる可能性もある。世の中、そんなにうまい話はない。今回、産業革新機構は私的整理の世界標準に沿って、債権放棄や経営陣の退陣要求を求めた点は一定の評価ができる。一方、あるタイミングで志賀さんとゆっくり話す機会があった。その時は、今後は自動車部品の再編をすごくやりたいと熱く語っていた。自動車部品は非常にセンシティブな業界。グローバルなディールをさばく人材やノウハウを革新機構が持ち合わせているのか?という大きな課題も改めて見えた。

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