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航空機業界とボーイング、切っても切れぬ相互依存

将来旅客機への参画は?
航空機業界とボーイング、切っても切れぬ相互依存

三菱重工が製造した787の主翼(左)と米に空輸する専用輸送機(中部国際空港で)

 日本の航空機業界が米ボーイングの次世代旅客機をめぐる動向に気をもんでいる。日本は航空機関連生産額の6割超が輸出で占められ、多くはボーイングを中心とする米国向けだ。ただ、現状では2020年に就航する大型機「777X」以降の新機種開発計画がなく、国内でも国産旅客機「MRJ」の後継機の方向性が定まらない。30年代の航空業界を見据え、水面下で駆け引きが続く。

ボーイング依存強まるも、次世代機は未定


 ボーイング向けの部品輸出は業界の"屋台骨"だ。三菱重工業川崎重工業、富士重工業などの業界大手は航空機の国際共同開発に参画するため、財団法人の日本航空機開発協会(JADC)を通じ、ボーイングとの交渉にあたってきた。1970年代には中型機「767」に機体の15%の比率での参画が決定。90年代は大型機「777」で同21%、03年には中大型機「787」で同35%と参画割合を拡大し、主翼などの中核部分も任せられるようになった。

 14年度の日本の航空機関連生産額約1兆6400億円のうち、約1兆500億円が輸出だ。ボーイングは14年の日本からの調達額を約52億ドル(約6000億円)としており、日本からの輸出の半分以上がボーイング向けとなる計算だ。

 ただ、次世代機への参画は、ボーイングの事情に左右される。20年の就航を目指し開発中の「777X」では日本の参画比率は約21%に抑えられた。三菱重工の大宮英明会長は「ボーイングの内製志向の強まりもあり、生産が(米国に)回帰している」と話す。

 777Xに続く次世代機をめぐっては中型機「757」や小型機「737」の後継機開発が取り沙汰される。JADC幹部は、「常に10年以上先を見据えてボーイングと情報交換している」と話す。ただし、早くても20年代後半の就航とみられ、プロジェクトはまだ立ち上がっていない。同幹部によれば、日本から具体的な提案もしていないという。

 過去には、小型機「737」の最終組み立てラインの一つを日本に設置したいとボーイング側から申し入れたこともある。日本側は愛知県や北海道などで工場の設置を検討したが、生産数などの問題から見送った。また767で日本側は当初、機体の50%の生産を提案したが、結果的に15%に決着した。今後の機種への参画も、現時点では白紙だ。

「ポストMRJ」の行く末も関係


 三菱航空機(愛知県豊山町)が開発するMRJの後継機が30年代に想定されることも、事態を複雑にしている。MRJの開発で三菱重工をはじめ日本の航空機産業は半世紀ぶりに「完成機」分野に参入する。ただ、その後の開発体制などは決まっていない。業界内には「”ポストMRJ“は三菱重工単独では難しい」との指摘が根強く、ボーイングとの機体の共同開発を推す声もある。その共同開発が成就するかどうかも流動的だ。

 ボーイングはMRJに顧客サポートなどで協力するが、ある日本法人幹部は15年秋、「(MRJが)ボーイングの事業と競合するなら協力はできない」と話した。777X以降の次世代機をめぐっては、日本、米国双方がそれぞれに事情を抱え、事業化決定への道のりは平たんではなさそうだ。
(文=杉本要)
日刊工業新聞2016年3月2日付 機械・航空機 面記事を再編集
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
一部報道で「三菱重工などがボーイングに次世代旅客機開発を提案した」とありましたが、要するに2030年代の就航が想定される次世代機に関してボーイングはまだ何も決めていないということです。

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