ニュースイッチ

みずほFG・りそな銀が100億円規模で設立…ベンチャーデット拡大の背景事情

みずほFG・りそな銀が100億円規模で設立…ベンチャーデット拡大の背景事情

6月に東京都渋谷区の会場で「りそなスタートアップクラブ」を初開催した

銀行がスタートアップ支援に本腰を入れている。特に動きが活発なのが転換社債や新株予約権付融資などエクイティ(株式資本)とデット(負債)両方の性格を持ち、投資と融資の間を埋める金融商品「ベンチャーデット」の展開。スタートアップは資金調達しやすくなる一方、銀行は一般的な融資よりも高い利息を受け取り、キャピタルゲイン(株式売却益)も期待できる。政府は2022年度、スタートアップへの年間投資額を10兆円規模まで拡大することなどを盛り込んだスタートアップ育成5カ年計画を策定。各行は政府の看板政策を追い風に、ベンチャーデットを新たな収益源として拡大する方針だ。(石川雅基)

ベンチャーデットは、ベンチャーキャピタル(VC)による投資のつなぎ資金を調達する手段として米国で広がった。米調査会社のピッチブックによると、22年の米国でのベンチャーデットを通じたスタートアップの調達額は300億ドル(4兆3000億円)超で、12年から約4・5倍まで拡大。その一方、日米での市場規模の開きは大きく、日本市場は数百億円程度にとどまる状況だ。

ただ、国内でもベンチャーデットに取り組む銀行が増えている。みずほフィナンシャルグループ(FG)は近く、100億円規模のベンチャーデットファンドを設立する方針。みずほキャピタルがファンドを運営し、みずほ銀行が出資する。事業が拡大しているミドル、レイターステージで、人工知能(AI)や脱炭素を手がけるスタートアップを対象にし、1社当たり2億―3億円程度を投資する計画。スタートアップが発行する新株予約権付社債を購入して資金を提供する。

ベンチャーデットの展開を始める背景について、みずほFGが強調するのが、株式の希薄化の回避。通常、エクイティでは増資などで発行済み株式の総数が増加し、1株当たりの価値が下がる。特に「足元の(投資環境の悪化によって企業価値の評価額が前回の資金調達時を下回る)ダウンラウンド局面では株式の希薄化が進みやすいため、エクイティではなくデットで資金を調達したいというスタートアップのニーズが高まっていた」(みずほFG)と説明する。

ベンチャーデットを展開することは、新たな収益源を探る銀行にとってもメリットが大きい。ベンチャーデットは銀行がリスクをとる分、利息が高く設定されており、新株予約権が付与される場合はキャピタルゲインも見込める。加えて、順調に成長すれば将来の融資先としても期待できる。

りそな銀行も10月をめどに、ベンチャーデットを手がける100億円規模のファンドを設立する計画。新株予約権付融資で、1社に5000万―3億円程度を供給する想定。みずほ銀行がターゲットにするミドル、レイターよりも成長ステージが前の段階であるアーリーステージのスタートアップも対象にすることで、早い段階からスタートアップを囲い込みたい考え。

あおぞら銀行は19年、傘下のあおぞら企業投資(東京都千代田区)を通じ、他行に先駆けてベンチャーデットの提供を開始。26年3月期までの5カ年で、新株予約権付社債などを130件手がける目標を掲げている。

ただ、銀行がベンチャーデットを展開する上で課題になるのが、スタートアップの事業性評価。あおぞら銀行の谷川啓社長はベンチャーデットについて「トラックレコード(実績)のないスタートアップの将来をみないといけないため、簡単なビジネスではない」と強調する。

みずほ銀行でもこれまでスタートアップの事業性やリスクを評価する難しさを経験してきた。そのため、スタートアップ向け融資を専門に審査する「イノベーション企業審査室」を22年4月に新設。今後、ベンチャーデットの審査にもノウハウを提供していく方針だ。

また、有望なスタートアップを発掘するネットワークも欠かせない。りそな銀行では、4月に新設したベンチャー支援グループが中心となってスタートアップと連携する「りそなスタートアップクラブ」を開催した。

今後、3カ月に1回のペースで、スタートアップを対象にしたピッチ会や勉強会などを開く計画だ。りそな銀行コーポレートビジネス部担当の持田一樹執行役員は「(スタートアップが多い)東京、大阪といった大都市圏に深いネットワークを持つ地域性と高い専門性で地域金融機関やメガバンクと差別化を図りたい」と意気込みを見せる。

あおぞら銀行ではスタートアップとのネットワークづくりに傘下のGMOあおぞらネット銀行(東京都渋谷区)が保有する約9万のスタートアップの口座を活用する。将来が有望なスタートアップを早い段階で見つけ出す。「既に口座を開設したスタートアップに、ベンチャーデットを提供する検討を始めた」(あおぞら銀行の谷川社長)という。今後、スタートアップの口座を20万口座まで引き上げる目標だ。

ベンチャーデットを手がけるSiiibo証券(東京都中央区)の小村和輝最高経営責任者(CEO)は、「スタートアップのニーズがこれまでエクイティに偏っていたが、今後はベンチャーデットのニーズも高まる」とみる。その上で「市場拡大には十社程度とまだ少ないベンチャーデットの資金の出し手が増えることや受け手のリテラシー、情報開示の質を高めることが求められる」と指摘する。

日刊工業新聞 2023年08月16日

編集部のおすすめ