無観客試合で限界…「少年野球帽」で一時代築いた会社の破産劇
かつて少年野球帽と呼ばれる、ほぼすべての男児が着用する帽子があった。5月10日に破産開始決定を受けたグリーンフィールド(台東区浅草橋)とその前身のクロスこそ、この少年野球帽を生み出し、かたちを変えて作り続けてきた会社だ。
少年野球帽が爆発的人気を得たのは1959年(昭34)、長嶋茂雄が天覧試合でサヨナラ本塁打を打った時から。先見の明があったクロスはいち早く製造に着手、これに同業者も追随し、60年代半ばから70年代末にかけて黄金時代を築く。百貨店、スーパーに全球団の帽子がズラリと並び、年間生産量は50万個に達した。一番人気はもちろん巨人で全体の約4割、阪神が3割を占めたという。
しかし80年代に入ると販路は縮小していく。海外スポーツブランドの台頭など嗜好(しこう)は変化し、おおらかだった版権やロイヤルティーも厳しくなった。2000年、クロスは任意整理で倒産する。同社専務だった津野勝弘社長が設立したのがグリーンフィールドだ。販路は球場での観客への無償配布に限られたが、プロ野球全12球団中、7球団との独占供給契約で十分な収益を上げていた。
倒産の理由は言うまでもない。新型コロナウイルスでプロ野球が無観客試合となった20年2月から2年間、主力商品の売り上げはゼロになった。この間、ゼロゼロ融資や雇調金など金融支援を受けつつなんとか事業を継続していたが、限界に達した。
22年春、中小零細企業の円滑な私的整理のために導入された「事業再生ガイドライン」。「廃業型私的整理」なら代表個人保証も法人の債務と一体処理し、社長の個人破産や根抵当の代表自宅の競売を回避できる。同社のように長年、社会に貢献してきた企業に使わずしていつ使うのか。しかし、「すべては過ぎたこと」(津野社長)だ。一つの時代を築き、その役割を終えて、静かにその幕を閉じた。(帝国データバンク 情報統括部)