試作品の製作コスト半減、キヤノンがMR・VRでデザイン開発
キヤノンは医療機器や商業印刷機といったBツーB(企業間)向け製品の大型化が進む中、複合現実(MR)や仮想現実(VR)を活用したデザイン開発を進める。商業印刷機の場合、人間の体の大きさを優に超えた3メートル近くの幅を持つ製品もあり、実寸大のモックアップ(試作品)の製作には時間やコストもかかる。MRやVRの導入により3次元(3D)で実寸の大きさを確認でき、検証の精度や作業効率の向上につながる。(高島里沙)
キヤノンはデザイン開発においてVRを2021年4月から、自社開発のMRシステム「MREAL」を22年3月から、それぞれ活用している。デザイン開発工程は手書きやコンピューター利用設計(CAD)を使ったデザインスケッチに始まり、使いやすさの検証、実寸確認、試作機の製作、プレゼンテーションという一連の流れがある。総合デザインセンターの関尚弘室長は「製品を市場投入するまでの開発期間も短くなっており、限られた時間での検討が必要」と語る。
製品の使いやすさを検証するために、従来はデジタルデータによる人体モデルや、ペーパーモデル、開発試作機を使っていた。開発中の製品が実際に目の前にあるかのように現れるMREALを併用することで、被験者の視野や姿勢を確認できるようになった。また製品データの切り替えで複数パターンを検討できるなど、開発試作機を製作する前の検証精度が向上した。
MREALやVRの導入によって若手デザイナーが実寸のスケール感覚を習得できる利点などもあり、人材育成にもつながっている。これまで実際の大きさを確認する際は、実寸大に印刷したりプロジェクターに投影したりしていた。ただ平面で見ると実際の立体物よりも形が大きく感じられることもあり、デザイナーのスキルが問われていた。
磁気共鳴断層撮影装置(MRI)のような医療機器の場合、動きを伴うデザインを実寸で確認できることは強みとなる。また検査技師をはじめとする機器の操作者だけでなく、患者の視点を考慮する必要もある。こうした取り組みにより、「(患者など)使う人の気持ちに寄り添ったデザインを実現する」(関氏)。デザイナー自身がMREALを使いながら患者目線での使用を体感する。空間を自由に設定できるVRは、製品の配置や作業空間、動線の検討などの目的によって使い分けている。
デザイン関連で重要な判断をする際には試作品を製作するが、MREALやVRの導入は、試作品の製作コストや製作期間の半減にもつながっている。デザインの初期検討となる使いやすさの検証や実寸でのデザイン確認にMREALやVRを使うことで、導入前には2台製作していた試作品が1台に減ったという。製品が大きくなることで試作品の製作コストが高くなり、置き場所にも困るといった課題の解決にも貢献している。