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思い立ったら即実行、ゴーゴーカレーに学ぶ突破力

<情報工場 「読学」のススメ#117>『カレーは世界を元気にします』(宮森 宏和 著)
思い立ったら即実行、ゴーゴーカレーに学ぶ突破力

ゴーゴーカレーフェイスブックページより

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「大風呂敷」が成功者の共通点

現役の日本の名経営者と言えば、孫正義(ソフトバンク)、柳井正(ファーストリテイリング)、永守重信(日本電産)といった名前を思い浮かべる人が多いだろう。三氏は互いに盟友であるそうだが、経営やビジネスの大風呂敷を広げがちで、自分たちが「ほら吹き3兄弟」だと、あちこちで語っている。

ゴーゴーカレーグループ創業者の宮森宏和さんの著書『カレーは世界を元気にします』(光文社)を読みながら、それを思い出した。ゴーゴーカレーグループは2003年に創業。20年間で海外進出も積極的に進め、現在は国内外に約100店舗を構える。黄色い地に赤い文字、ゴリラが描かれた派手な看板に見覚えがある人もいるだろう。

宮森さんは石川県金沢市生まれ。地元の旅行会社に就職するも、同じ石川県出身でニューヨーク・ヤンキースに移籍したばかりの松井秀喜選手が放った満塁ホームランに大感動し、「ニューヨークでひと旗揚げたい」と一念発起してゴーゴーカレーを創業。3年後の2007年には本当にニューヨーク出店を果たした。

『カレーは世界を元気にします』は、宮森氏自身が、ゴーゴーカレーの創業に至った経緯や目標だったニューヨーク進出、苦労話、さらには経営哲学や今後の夢までを記した一冊である。

宮森さんは、今後は「カレーのプラットフォーマーになる」ばかりか「カレーによって健康寿命を延ばす」と医療分野への貢献にまで発想を広げる。夢は「ノーベル平和賞」受賞と言うのだから、やはり「大風呂敷」感、「ほら吹き」感が漂う。しかし、ほら話も実現すれば、ほらではなくなる。宮森さんのほらの実現力、いわば「突破力」に、読んでいるこちら側も思わず元気になってしまうのだ。

「ニューヨークで成功したい」と思い立ち即実行

書籍の冒頭には、宮森さんを理解するための「3つのキーワード」が掲げられている。
 1.「できるか? できないか?」ではなく、「やるか? やらないか?」
 2.無理と言われると燃えるタイプ。
 3.思い立ったら即実行。

いずれもどこかで聞いたことがあるフレーズではあるが、本当に実行するのは決して容易くない。ところが、宮森さんは、本当に実行するのである。

まず、松井選手のホームランを見て「ニューヨークで成功したい」と「思い立つ」。そもそも「ニューヨークで成功したい」と本気で考える人自体多くないだろう。だが、冒頭の「ほら吹き3兄弟」を含め、成功をつかむ人は、どこまでも「本気」だ。そして即断して「実行」に向けて動き出す。

宮森さんはその後、たまたま街中でカレーの香りをかいだことで、カレーのチェーン店ならばニューヨークに行けるのでは、とひらめいた。そこで、学生時代からよく通っていた、地元金沢のカレーの名店「ターバン」に、「東京やニューヨークで広めたい」と伝えた上で、修業を申し込む。断られても、そこは「無理と言われると燃える」タイプ。何度も食い下がると、「(宮森さんがカレー店を出店する)物件を決めてから来てください」と言われる。店舗用の不動産にはツテがなく、さすがに「できない」と諦めそうな場面だ。だが、宮森さんはすぐさま行動に移し、なんと東京で物件を見つけてくる。そして勤務先に辞表を提出し、「ターバン」で修業を始めてしまう。

普通の人は、「プログラミングを勉強してみよう」「副業を始めてみよう」といった小さな思いつきでさえ、なかなか動き出せないものだ。ところが、本書冒頭にあるように、宮森さんの行動基準は「できるか? できないか?」ではなく「やるか? やらないか?」。「即実行」に迷いはなかった。

「カレーのプラットフォーマー」への挑戦

手痛い失敗もあった。チェーン店の数が増えてくると、人材育成が追いつかず赤字店舗が増加。キャッシュが回らなくなり倒産の危機も経験した。プライベートでは長女を生後2か月足らずで亡くした。こうした紆余曲折を経て、宮森さんの内面には変化が起こったと思われる。「ニューヨークで成功して華やかな生活」がそもそもの事業の目的だったが、社会活動にも注力するようになったのだ。カンボジアに学校をつくったり、東日本大震災の被災地で支援活動を行ったりといった取り組みだ。

直近の報道によれば、今年1月にゴーゴーカレー本社を、東京から金沢に移転した。もともとドロッとしたルー、ソースのかかったカツ、千切りキャベツが載っている「金沢カレー」が売りである。移転の背景には、地元に恩返ししたいという意図もあるようだ。

宮森さんは、今後「カレーのプラットフォーマー」となる構想を練っているという。ゴーゴーカレーのカレーだけでなく、おいしいカレーをつくる人がいたら、その味を「レトルト商品」として流通させる手伝いをするようだ。おいしいカレーをよりグローバルに展開する「カレーの専門商社」を目指すとも言っている。

宮森さんは、今年6月にゴーゴーカレーグループ社長を退き、取締役会長となった。後任の社長は、IT業界出身で宅配サービスを手掛けるウォルトジャパンの経営に携わった西畑誠さんだ。それでもなお「カレーの専門商社」「プラットフォーマー」「北陸を元気にする」と語る宮森さんの夢は、相変わらずほら話に聞こえかねない。しかしまだ、ほらと決まったわけではないだろう。宮森さんの突破力に、学ぶべきことは多い。

(文=情報工場「SERENDIP」編集部 前田真織)

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『カレーは世界を元気にします』
-金沢発! ゴーゴーカレー大躍進の秘密
宮森 宏和 著
光文社
224p 1,760円(税込)
情報工場 「読学」のススメ#117
吉川清史
吉川清史 Yoshikawa Kiyoshi 情報工場 チーフエディター
『カレーは世界を元気にします』には「語呂が良く、勢いがつきそうだ」としか書かれていないのだが、「ゴーゴー」は松井秀喜氏の現役時代の背番号「55」から来ていると思われる。新宿の第1号店のオープンが2004年5月5日、ニューヨーク店の開店が2007年5月5日、この本の発行日は2023年5月5日。自慢のカレールーは55の工程と55時間をかけ、第1号店オープン時には1皿55円のキャンペーンを打った。トレードマークのゴリラは、本当は松井選手の愛称であるゴジラを使いたかったが、権利の関係で語感が似ているゴリラになったそうだ。こうした、一見どうでもいいようなこだわりであっても、「ちなみに」と人に話せるストーリーが強力なブランディングになるという好例だろう。

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