【ディープテックを追え】生殖医療をテクノロジーで進化させる
生殖医療をテクノロジーで進化させる-。この目標に向け、技術開発に挑むスタートアップがアークス(東京都渋谷区)だ。同社は人工知能(AI)とロボティクス技術を活用し、生殖医療の現場が抱える人手不足や非効率などの課題の解決を目指す。
現在の顕微鏡受精では、胚培養士が、動きが素早いなどの特性を持つ良質な精子を選び、ピペットを使い、卵子へ注入して受精する。
課題はその難易度にある。良質な精子を見極めたり、卵子の膜を壊さずに受精させたりするには、胚培養士の経験や高い技能が必要になる。そのため症例件数の多い都市部と胚培養士を確保しづらい地方では治療の成功率に差が生じている。
そんな中、同社が目指すのは顕微鏡受精の自動化だ。胚培養士の持つ良質な精子を見極める目と受精させるピペット操作を、AIとロボティクス技術で再現する。技術によって胚培養士の不足の補填や、顕微鏡受精の成功率の向上に繋げたい考えだ。
その実現に向けた課題は大きく二つだ。一つは動きの速い精子をいかに検出するかだ。アークスの棚瀬将康代表は「一般的にAIは認識する対象の動きが速いとその精度が落ちてしまう」と話す。素早い精子の動きに追従しながら、認識する必要がある。ピペット操作では、柔らかい卵子を傷つけないようにする必要がある。特に遺伝情報が宿る部分に穿刺しないように遠ざけないといけない。
こうした技術について顧問を務める順天堂大学の河村和弘教授と東京医科歯科大学の池内真志教授と共同開発する。また生殖医療を提供するクリニックなどと協力し、質の異なる精子や卵子のデータを集め、AIの性能向上を目指す。棚瀬代表は「卵子などは患者によって特徴が異なるため、データの量よりも幅が必要だ」と話す。将来は既存の運動性や形態異常性による精子評価だけでなく、AIを使った高度な選別機能を実現したい考えだ。
早ければ2024年の夏ごろにはマウスを使ったPoC(概念実証)を始める。コンセプトの実証後、人の生殖細胞での臨床を行いたい考えだ。